第1章 出会い
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「それで、気が付いたらこのタンスの中に」
「ほう。つまりお前が落ちたその井戸とこのタンスがどうにかなって繋がっちまった、ってわけか」
「たぶん、そういうことだと思います」
エマは突っ立ったまま難しい顔をして考え込んでいる。
「おい」
「はい」
「まぁそう焦るな。お前が今いくら知恵を絞ろうとここに来ちまった事実は変わらねぇし、今のところはそのタンスはいたって普通のタンスだ」
「そ……そうです、よね」
リヴァイさんの言う通りだ。 今ここでうんうん唸ったって状況が変わるわけではない。
「幸い明日は休みだ。明日の朝、俺からこの兵団の団長に話をする。さすがに俺一人でずっとお前をかくまっとくわけにも行かねぇからな」
「分かりました」
そうだ、この世界にも生きている人達がいて、生活してるんだ。
あと数時間で朝日が昇るしみんな起きてくる。
エマは一旦元の世界へ戻る方法を考えることをやめ、突然目の前に現れたこの世界に目を向けてみようと思った。
それにしてもこの人すごく冷静だ……私なんて混乱してしまって、何から考えていいのかさっぱりなのに。
すぐに頭を整理して、今何をするべきか考え助言までしてくれている。きっとすごく頭のキレる人なんだろうな。
エマがぼんやり考えていると低く抑揚の少ない声が耳たぶを叩いた。
「おい、今日はもう寝ろ。そこのベッドを使えばいい」
「え、リヴァイさんはどこで」
「ソファで寝る」
「それは申し訳なさすぎます! 私こそソファで十分ですよ!」
「いくら初対面だからとはいえ、俺は女を椅子で寝かせるような男じゃねぇぞ」
「でも……」
リヴァイの気遣いは嬉しかったがいきなり転がり込んで来た挙句、部屋の主を差し置いて堂々とベッドで眠るなんてとてもできない。
「でもじゃねぇ。さっさと寝ろ。俺も眠い」
しかしリヴァイは、申し訳なさから食い下がろうとするエマにピシャリと言い放った。
こんな有無を言わさぬような目で睨みつけられたら、もう従うしかないじゃない。今はこの人の厚意に素直に甘えた方がいい、か……
「わ、分かりました。ありがとうございます」