第7章 初めてのお味は…
「おい、歩けるか?」
「ん………むり、」
「チッ…仕方ねぇな。」
エマを肩に担いで執務室から引きずるように歩かせて出てきたが、エマはもう自力では一歩も歩けないといった様子で、足の力も抜け切っていた。
リヴァイは彼女の身体をもう一度支えると、両手で抱き上げて歩き始めた。
「あれ…?ふわふわする…わたし、またそらとんでるの?」
エマは焦点の合わない目でうわ言のように呟いている。
「馬鹿言え、俺に抱かれてるだけだ。」
「ふふっ、そうだったんだぁ。リヴァイしゃん、ありがとぉございまし………」
エマはふにゃふにゃした声で喋りながら腕を緩くリヴァイの首に巻き付けていた。
「…………」
迷子になった時は同じことしたらピーピー喚いてたくせに、今日は素直に腕なんか回してきやがって…
普段はどちらかと言うと静かなタイプだし、最近は真面目に仕事をしている姿しか見ていないせいか、こういう彼女はとても新鮮に感じる。
酒の力でこんなに大胆になってしまっているのは承知の上だが、それでもリヴァイは彼女の新たな一面を発見した気になり、なぜだか胸躍るような気分になっていた。
…そういえば、
「お前の部屋はどこだ?」
「…………」
「おい。」
「…………」
「この一瞬で寝やがったのか…」
気が付くと、エマはリヴァイの腕の中で静かに寝息を立て始めていた。
おいおいおいおい待て待て。
どうすりゃいいんだ。
リヴァイは困った。
エマの部屋は兵舎の女子棟にあるため、もちろん足を踏み入れたことなどない。
ハンジなら知ってる気がするが、今の状態じゃまともに会話出来る気がしないし、何よりもうあの部屋には近付きたくない…
「……クソめんどくせぇな…」
リヴァイは少し頭を悩ませた後、くるりと向きを変えてある場所へと向かった。