第39章 時をかける
「リヴァイさんが来たかったところって…ここ?」
「そうだ」
「こんな夜遅くにどこ連れてかれるのかと思ったら…この前の私と一緒じゃないですか、唐突に海だなんて。」
「そういう気分だった。だから我儘に付き合えと言っただろう。」
「フフ、いいですよ?ちょっとびっくりしたけど付き合います。今日はリヴァイさんの誕生日ですしね。」
少し心許ないが、それでもエマの表情を知るには十分な明るさだ。
彼女は優しく笑うと、鞄の中から何やら袋を取り出した。よく見ると袋の口は装飾用のリボンで結ばれている。
「これ、誕生日プレゼントです!いらないって言われたけど、やっぱり何か形に見えるものでお祝いしたかったので。」
「そうか…ありがとうな」
確かに何もいらないと言った。エマと過ごせるだけで十分だったから。
でもやはり嬉しい。自分のためを思って準備してくれた気持ちが何よりも。
「へへ。中、見てみてください。」
言われて袋を開けると、手触りの良い通勤にも私服にも使えそうなシンプルな黒のマフラーが入っていた。
「リヴァイさんいつも首元寒そうだなって思って。」
その場で巻いてみた。首を温めるだけで体感的にだいぶ暖かくなるというのは本当だった。強めの海風が吹きつけてもさっきより寒くない。
「あったけぇな…」
「ですよね?!」
エマも自分のマフラーを口元まで上げ、嬉しそうにぬくぬくしている。
もう一度礼を言うとなぜかエマの方が幸せそうに笑った。
「ところでなんでいきなり海に行こうと思ったんですか?」
「あれ以来行ってなかっただろ。もう一度お前とちゃんと見に行きたいと思った。」
「それなら昼間の方がもっとちゃんと見れますよ?海。」
「夜の海も悪くないだろ。それに都会は人が多くて落ち着かねぇ。」
「なるほど!私もこっちの方が好きかも。寒いけど、なんかロマンチック。」
当たり前だが、もうすぐ日付が変わるこんな時間帯に冬の海をうろつく奴は他にいない。
波音をバックに自分達の話し声がいつもより鮮明に響く。
だだっ広いこの場所で、二人のいる空間だけが切り取られたみたいだった。
時折吹く強めの風が身を震わすような寒さをもたらすが、それでも人混みの中イルミネーションを見るより良いと思えた。