第39章 時をかける
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秋がすぎ、冬が訪れた。
スマホをポケットにしまい冷えた手を擦り合わせる。乾燥が気になりだして、そう言えば今日はハンドクリームを忘れてしまったと気がづいた。
信号が変わるとスクランブル交差点は今日も人で埋め尽くされる。エマもその中に混じって歩きだした。
せかせかと家路を急ぐサラリーマンや、ジュースを飲み歩きながらくっちゃべる女子高生達。
いつもと変わらぬ光景もあるが、でも今日しか見られない光景もあった。いつもよりカップルの割合がとても多い。
それもそのはず。今日はクリスマスなのだ。
エマは歩きながら、少しだけ過去を振り返った。
人生で一番特別な日を迎えていたかもしれなかった今日。
自分の心に嘘をついたまま、相手の裏切りに気付かないふりをしたまま。
そんな未来を迎えなくてよかったと思う。
もちろん、迷惑をかけた人には申し訳ないと思っているけれど…
でも、今はとても晴れやかな気分なのだ。
胸を張って幸せだと言える。
エマは前を見た。
横断歩道を渡った先に見慣れたシルエットを見つけた。これだけの人混みの中でもすぐ見つけてしまうのだから、これは特技と言っていいかもしれない。
「お疲れ様です、リヴァイさん!」
「あぁ。…なんだ、会って早々ニヤニヤしやがって。」
「だって今日は特別な日じゃないですか!」
「特別な日?なんの事だったか。」
「えー?とぼけないで下さいよ!お祝いできるの楽しみにしてたんですから!」
「そう怒るな、冗談だ」
目を伏せ少し口角を上げるリヴァイ。嬉しさと少しの恥じらいが伝わってきて、口を尖らせていたエマはすぐに綻ぶ。
どちらからともなく手を繋ぎ、二人は歩き出した。
冷たい北風が通り抜けるとその距離はぐっと縮まる。エマがリヴァイの腕に絡みついたせいだ。
「あんまり外でベタベタするなよ。」
「だって寒いから…」
上を向けば今にもため息が出そうな顔。でも本気で嫌がってないことは知ってる。
「で、どこ行くんですか?お店は用意するって言ってましたけど…」
「もう少し歩いたところだ。黙ってたが…実は今日はお前に会わせたい奴らがいる。」
「えっ?!」
突然の告白にエマは驚いてもう一度見上げた。