第39章 時をかける
「どうしたんですか?さっきより口数も少ないし、元気ないような…」
温泉に入るまでは普通だった。
今回は貸切風呂でなく男女分かれた大浴場に行ったのだが、温泉に入っている間に何か心境の変化でもあったのだろうか。
「…別にどうもしちゃいねぇ」
「本当に?あ、私一人テンション上げちゃって鬱陶しいですよね。もういい大人なんだし少しは落ち着かないとですね、すみません。」
「いや、違う。お前はそれでいい。」
「そう、ですか…」
エマにはリヴァイが何を考えているのか一向に分からなかった。
何ともないと言っておきながらどこかすっきりしない顔をしているじゃないか。
言ってくれなければ不安になってしまう。
「…リヴァイさん昔からですけど、表情の変化が乏しくて何考えてるのか分かりづらいです。言ってくれなきゃ、わかんない事だってあるのに…」
本心を語らないリヴァイに痺れを切らしてついエマが口を尖らすと、“ハッ”と笑う声がした。
「…何が可笑しいんですか。」
ツンとしたまま拗ねたように聞いてみると、テーブルに肘をついて向かいで胡座をかくリヴァイに人差し指でこっちに来いと示された。
その顔はさっきまでの思い詰めたような…リヴァイの言葉を借りるなら“クソが詰まったような顔”ではない。薄く笑みを浮かべている。
エマはたったそれだけの態度に胸をキュンとさせ、不満も忘れて子犬のように寄っていった。
リヴァイは真横に来たエマの頭を撫で、髪にキスを。
「なかなか言うようになったじゃねぇか。昔は俺に面と向かって文句なんざあまり言わなかった気がするが。」
「…私だって色々経験して成長したんですよ!」
意地悪そうにそう言うリヴァイを威張って見上げれば、両手で顔を引き寄せられ 今度は唇にキスが降る。
そしてその口付けはさっき海でしたそれとは違い、情欲を帯びた艶かしいもの。
角度を変え何度も塞がれる。エマもすぐに応えて薄い唇を掬い、啄んだ。
しんとした部屋にリップ音と時折湿った吐息が混ざり溶けていく。
リヴァイの手がエマの髪や背、腰を滑り撫で回す。エマもまた同じように。
エマがゆっくりと畳に押し倒される頃には、口内の深くで舌が絡み合い、浴衣はすっかりはだけていた。