第39章 時をかける
肩を並べて歩く二人の間には、今までのような寂しい隙間はない。
エマの手に触れた指。どちらからともなく指を絡め合い、繋ぐ。エマの心にじんわりとあたたかい気持ちが広がった。
二人は手を繋いで、一面に輝くオーシャンブルーを仰いだ。
「…これからどうするつもりだ?」
「彼氏とは…ちゃんと話をして、別れる。」
そしてできればまた、リヴァイさんと一緒に。
心の中で小さく願った。
「私も彼氏のこと悪く言えなくなっちゃうな…」
エマは自嘲するように独りごちた。
こんなの、相手からしたら自分から乗り換えたと思うだろう。
でももう彼氏との未来は考えられない。自分勝手かもしれないけれど、向こうも浮気していた事実がある。お互い様だ。
「親……悲しむかな」
結婚式を楽しみにしてくれていた両親。式は身内だけで挙げる予定だったけれど、報告した友人達にも失望させてしまうだろう。
「お前は誰のために結婚するんだ?親や周りのためか?違うだろ?俺が言うと下心ありきで話してるように聞こえるかもしれねぇが…自分のためじゃないのか?」
リヴァイは真っ直ぐエマを見据えて言った。
重なった右手にきゅっと力が込められる。
「お前には幸せになってほしい…“自分が”幸せになれる道を選んでほしい。そしてできれば、」
“お前が選んだ道に、俺がいればいいと思ってる”
ザザァ——
その時、一際大きな波が浜に打ち寄せた。足元のすぐそばまで迫っている。
強く吹いた潮風に髪が靡いて、唇に張り付く。それを払うこともできないまま、エマは立ち尽くした。
「……軽蔑、したりしない…ですか?」
「これが進むべき道だと決めつけちまうより、間違っても迷いながらでも自分に素直に生きる方がよっぽどいい。」
ちょうどその時、雲の隙間から太陽が覗く。
眩しさに目を細めたリヴァイに、エマは眉を下げ微笑んだ。
「そうですね…リヴァイさんの言う通りです。じゃあ……今の私の素直な気持ち、聞いてくれますか?」
「あぁ、なんだ?」
エマとは対照的にリヴァイは真面目な顔をした。少し緊張しているのが伝わって、エマは思わず綻んでしまった。