第39章 時をかける
切れ長の細い目が丸く見開かれている。
薄い唇は震えて、何か言おうとしているのか小さく開いたり閉じたり。
しかしそれらが鮮明に映ったのは一瞬で、景色は瞬く間に、水彩画に水を垂らした時のように滲んでいく。
頬に触れた両手。自分より少し冷たい温度。
微かに震えるそこからは、溢れる想いがひしひしと伝わってくる。
エマはもう一度呼んだ。今度はうわ言のようではなくはっきりと。大好きなその名を。
瞬間、唇同士は重なり合った。
身体を包み込むように抱きしめられ、閉じたエマの目からは大粒の涙が落ちた。
さざ波の音も、遠くではしゃぐ学生の声もどこか現実味がない。
二人だけが世界から切り取られたようだった。
抱き合い、唇を寄せては離し 見つめ合い、互いの存在を、想いを確かめ合う。
エマはリヴァイとの空白の時間を取り戻すように。
リヴァイは探し求めたエマとの再会を噛み締めるように。
そこに言葉など必要なくて。
ただ触れ合って、体温を重ねるだけで十分だった。
どのくらいそうしていただろうか。
名残惜しそうに離れた唇。
目を開けて、エマが最初に見たのはどこか照れくさそうなリヴァイだった。
「…大人びたな」
目を逸らしながら言うリヴァイにエマは思わず吹き出してしまう。
「久々の再会で一言目にそれですか?」
「事実を言ったまでだ。…いや、本当は他に言いたいことは山ほどあるが出てこねぇ。」
「…へへ、私もです」
本当にリヴァイの言う通りだ。
リヴァイがこの世界にいることや自分が突然記憶を取り戻したこと。リヴァイが今までどんな人生を歩んできたのか、自分がどんな風に過ごしてきたか。
話は一晩や二晩じゃ語り尽くせないほどある。
けれど今はそんなことよりも。
「本当に逢えた…夢じゃ、ないんですよね…」
「あぁ。ここに辿り着くまでにかなり遠回りしたけどな。」
「私も…待ってました。頭は忘れちゃってたけど、リヴァイさんのことはずっとこの胸に…」
ネックレスを握りしめる。
心はずっと忘れることなく覚えていたんだ。
だからこそ、リヴァイに再会した時あんなにも安らいで、無意識に一緒にいたいと思ったに違いない。