第39章 時をかける
彼の裏切りを目の当たりにした翌日、私は海に行くと決めた。
現実から目を背けたかったからか、傷ついた心を癒したかったのか、何故思い立ったのか分からないけれど、無性に海を見たくなったのだ。
そして一人で行きたいと思ったわけじゃなかった。
傷心旅行なら一人で十分なはずなのに、リヴァイさんと一緒に行きたいと思ったのだ。
どうしてかは分からない。
けれど一度一緒に行きたいと思ってしまったら、行動せずにはいられなくて。
「一緒に来てほしい所があるんです…お願いします!」
気が付けば当日の朝、無謀にもリヴァイさんを誘っていた。
今思えば、本能もしくはそれに近い部分ではずっと憶えていたのかもしれない。
初めて出会った日。痴漢から助けてくれたあの日。
お礼をしたいからと後日会う約束を取りつけたのは、単純にもう一度会って話してみたいと思ったから。
“きちんとお礼をしなきゃ気が済まない”だなんて建前だ。
私は無意識に近いところで、このままリヴァイさんと別れてしまいたくないと思っていたのだ。
そして同じ理由で一緒に通勤するようにもなった。
リヴァイさんの隣はとにかく信じられないほど居心地がよくて、安心した。
これを言っては私も彼氏を責めることは出来なくなるけれど、心の底ではリヴァイさんにもっと会いたい、近づいてみたいと思っていたのも事実。
本当に不思議だった。
出会ったばかりだというのに、まるでずっと一緒にいたような感覚と懐かしさがあって。
こんな風に思える人と出会ったのは初めてで、もしかしたら運命の人…?なんて浮かれたことを考えたりもした。
でもたった今、そう思っていたワケを全て理解した。
居心地がいいのも懐かしいのも、もっと会いたいと思うのも当たり前の感情だったのだ。
だって、あなたと私はあの頃からずっと変わらず、愛し合っていたのだから。