第39章 時をかける
大切な記憶を置き去りにしたまま、時は過ぎた。
「誕生日プレゼント、ネックレスはもうあるからそれ以外がいいなぁ」
「お前がずっとしてるそれ…まさか俺以外の男からもらったやつじゃねぇよな?」
「そんなわけないでしょ。でも気に入ってはいるかな。」
胸元で優しい輝きを放つピンク色。
気に入っているし、何故か分からないけれど とても大切なものな気がしていた。
でもどうしてこのネックレスを持っているのかは、どう頑張っても思い出せない。
「そっちは何が欲しい?ほら、私の後すぐじゃん誕生日。」
「そうだなー…」
大学の時、友達から恋人になった彼氏。
元々友達だったから最初からときめくようなことはなかったけれど、気を遣わないし一緒にいるのも楽だった。
喧嘩もあまりなく穏やかに過ぎていく日々。
月日は経ち、周りの結婚ラッシュが始まると互いにそういうことを意識するようになり。
ただ、そんな中彼の浮気に気付いてしまった。
でも何故かそんなにショックでもなくて。
問いただすことも別れることもなくダラダラ来てしまった理由は、正直に言ってしまえば“面倒”だったから。
別れてまた一から新しい人を探して、プロセスを踏むのが面倒だと感じてしまったから。
「結婚してください」
そう言われ、私は頷いた。
都合の悪いことには目を瞑った。結婚が決まれば彼もさすがに真面目になるだろうと思って。
でも蓋を開けてみたら結局、別の女との関係は続いていた。
彼の部屋で二人と鉢合わせしたときはショックを隠せなかったけれど、少し冷静になったとき思ったんだ。
彼のことは別に好きじゃなかったのかもしれない。
もちろんショックはショックだけど、婚約までして裏切られたのに、感情の大部分を占めるのは“諦め”だったのだ。
しかも、百年の恋も冷めるという感覚ではなくて、 “あぁ、やっぱりか”という気持ち。
だから放棄するのも簡単だった。婚約して式の日取りまで決めたのに、驚くほどあっさりと。
私は漸く気が付いた。結婚を決めたのも、焦ってなんとなく流れに身を任せただけだったのだと。
彼にというより、自分に失望した。
最初から、全然 愛せてなどいなかったのだ。