第39章 時をかける
「アッカーマ」
「許さねぇ」
「え……?!」
エマを遮って、リヴァイは絞り出すように呟いた。
そして彼女に何か言う隙を与えまいとさらに強く抱く。
「お前が幸せじゃない未来なんて許さねぇ…どれだけ待ったと思っていやがる…やっと再会できたと思ったら、こんな…」
エマは黙った。
だが離れようとはせず、大人しく抱かれたままでいる。
急に抱きしめてきて、何意味のわからないことを言い出すんだと困惑しているだろうか。もしかしたら動けなくなるほど引いてしまっているかもしれない。
でも、一度漏らした本音は止められなかった。
「昔は泣かせてばかりいた。だからこそこの先、悲しんで泣くようなことがないようにと願っていた…」
記憶を失くしているとか、そんな話はもうどうでもいい。
独りよがりだとしても、伝えたかった。
今も目の前にいるエマが何よりも大切で、好きで、ずっと笑っていてほしいと思う。
ただそれだけ。
「お前は俺に“一生を添い遂げたいと思うやつに出会ったことがあるか?”って聞いたよな?」
「…はい」
小さな声で答えたエマをそっと離し、目を合わせる。
その顔は想像通り衝撃が滲んでいた。
この先を話したら、お前は迷惑だと思うかもしれない。
けれど、気付いてほしい。
エマの幸せを一番に願い、その幸せを守りたいと思ってる奴がいるってことを。
「俺が一生一緒にいたいと思ってるのはお前だ、エマ。気が遠くなりそうなほど前からずっと、そう思ってきた。」
大きな漆黒色の瞳は、こぼれ落ちそうなほど見開かれる。
その瞳が表す色はやはり困惑…だろうか、わからない。
「会って間もない奴が何めでてぇこと言ってんだって思うだろ…でも別に理解できなくていい。だから気持ちに応えてくれとも言わない。ただ、俺が伝えたかっただけだ。」
リヴァイは言いながら目線を下げた。
華奢な手が胸元をきゅっと掴んでいる。
その手は震えていて、よく見れば自分が贈ったネックレスを握っていた。
再び目線を上げた時、信じられない光景が飛び込んだ。
「リヴァイ…さん…」
初めて“名前”を呟いたエマ。大きな瞳には涙を溜めて。
その表情を見て、リヴァイは全てを悟った。