第39章 時をかける
「はー楽しかった!」
「はしゃぎすぎだ。服びしょびしょじゃねぇか。」
ひとしきり波打ち際で遊んだ後、自販機で飲み物を買い木陰のベンチへ腰掛けた。
二人揃って壮大な青を眺める。
寄せては返す波の音が心地よく染み渡った。
「えへへ、海見てついテンション上がっちゃって。すみません」
「お前が楽しめてるならそれでいいが。」
「…アッカーマンさんって、見かけによらず優しいですよね。」
「見かけによらずってなんだよ。それに俺は元々優しい。」
「あははっ、すみません。…でもこんな無茶ぶりにも答えてくれたし…本当、ありがとうございます。」
急に声のトーンが落ちたので目線を海から隣へ移すと、エマは軽く俯いていた。
「まぁたまには嫌なこと忘れてはしゃぐってのもいいんじゃねぇのか?」
「忘れて……ほんと、忘れたいです。はは、」
力なく笑うエマの目は砂が被ったコンクリを見つめたまま。
「何かあったのか」
リヴァイは彼女が話しやすいよう敢えてエマから視線を逸らした。
海面が眩しくて目を細めたが、彼女の返答にその目を見開くこととなる。
「………浮気」
「?!」
「されてたんです、彼に。」
顔を上げたエマはニコリと笑っていた。
リヴァイは黙った。黙って先を促したのではない。ただ頭が真っ白だったのだ。
「でも私、ずっと前から知ってたんです。プロポーズされてから大人しくなって、やっとけじめをつけてくれたんだって信じてました。…けど蓋を開けてみたら、何も変わっちゃいなかった。」
「……」
「昨日たまたま連絡なしに彼の家に行ったんです、そしたら女の人とベッドで寝てて。あぁ、もちろん裸です。……彼、一言目になんて言ったと思います?“連絡しろよ!”って……こういう時に人間の本質が分かるんだって思いました。先に言わなきゃいけないこと色々あるでしょって。でも言うのも面倒になって…っていうかどうでよくなって飛び出してきちゃいました。」
一気に喋って、最後にフフと笑うエマ。諦めたような笑顔だった。
遠慮も躊躇いもなかった。
ただ胸が苦しくて、悲しむエマを見たくなくて、こいつにこんな顔をさせた男が許せなくて。
リヴァイは手を伸ばし、小さな体を抱き寄せた。