第39章 時をかける
都心のターミナル駅から鈍行で約2時間。
新幹線でも来れたがゆっくり景色を見ながら行きたいというエマの要望により電車に乗った。
それでも会話をしたりぼうっと景色を眺めていると意外にも到着はすぐだった。
降り立ったのは海沿いの有名な温泉地。
駅に着いた瞬間、その景色が記憶と重なる。
…間違いない。ここは昔、エマと来たことがある温泉地だ。
リヴァイは驚いてエマを見た。彼女も記憶が戻ったのかと本気で思ったのだ。
しかし一向に彼女の口からそれらしいことは語られなかった。
リヴァイは心の中で肩を落とす。単なる偶然に過ぎなかったのだろうか…
「温泉でも入ろうってのか?」
「それもいいですね!けど、今日は別の目的があって。」
エマはそう言うと、意気揚々と先導しだした。
「ここから少し歩くんですけど大丈夫ですか?」
「別に構わねぇよ」
駅から繋がる商店街をいくつか抜け、ひたすら坂をおりていく。しばらく歩くと視界が開け、見えてきたのは海だった。
「わぁ!綺麗!!」
浜へ駆け出す背中を眺めながらリヴァイも歩く。
シーズンを終えた浜辺は、夏休みの最後を満喫する大学生くらいしかいない。
閑散としていたが、水面は夏の面影を残す太陽を反射して生き生きと輝いていた。
「アッカーマンさんももっとこっち来てみてください!」
いつの間にか波打ち際にかなり近づいたエマに手を振られる。
平日の昼間から仕事に行く格好をして海にいるなんてかなり異質だ。だが今は、そんなことなど全然気にならなかった。
「おいおい、はしゃぎすぎじゃねぇか?」
「だって久しぶりに来たんですもん、海!足だけなら、ね!」
エマは近くの岩に靴とストッキングを脱ぎ捨てると、不安定に揺れる水面へつま先をつけた。
「ぬるーい!」
「そりゃあそうだろ。ついこの間まで夏だったんだ、っておいっ!」
スーツが濡れた。しぶきの奥には悪戯な笑顔が。
「ははっ!アッカーマンさんも入ってみてくださいよ!やっ、ひゃあっ!」
童心に返ったように笑うエマにリヴァイも仕返しをしてやった。