第39章 時をかける
頭を下げたエマをリヴァイは呆気に取られながら見ていた。
今から会社を休んでどこかへ行く…?
本当に突拍子もないことを言う。
「いきなりどうしたんだ」
「とんでもなくご迷惑なこと言ってるのは重々承知してます!でも…でもどうしても…」
そこまで言ってエマはまた口ごもる。
リヴァイは漸くそこで気がついた。
いつもと比べ元気のなかったエマ。
この無茶な要求は、きっとそれが関係しているのだと。
「分かった。ちょっと待ってろ」
リヴァイはその場で会社に連絡を入れた。仮病で休むなんて学生の時以来だ。
「すみません、こんな無茶を聞き入れてくれださって。」
「お前はいいのか?会社は」
「実は家を出る前に連絡してあって」
「おいおい、じゃあ何で通勤服でここにいやがる?」
「だって…こうしないとアッカーマンさんに会えないから。」
「連絡先知ってるだろ。事前に連絡くれればまた休日にでも」
「ワガママでごめんなさい!」
エマは遮るように声を張り、また頭を下げた。
「どうしても今日行きたかったんです…本当に、いい大人が何ワガママ言ってるんだって自分でも思う…けど、」
「理由は知らねぇがわかった。確かにとんでもない我儘だが特別に聞いてやる。」
「…! ありがとうございます!!」
「言っとくがこの貸しはデカいぞ」
「何でも聞くので何なりとお申し付けください!」
最後はリヴァイが冗談ぽく言うと、思い詰めたような表情から一転、パッと顔が華やぐ。
普通、彼氏でもこんな無茶苦茶な要望は突っぱねるだろう。
最初はリヴァイも“何を言い出すんだ”と思ったが、結局のところリヴァイもエマと過ごす時間が増えて嬉しいに越したことはなかった。
「で、どこに行くつもりだ?」
「少し遠くてもいいですか?」
「この時間からならどこへだって行けるだろう。」
「そうですね!頑張れば沖縄とか行けちゃいますかね?」
「行って帰って来れんこともないな。」
悪戯に笑う女はとても美しかった。
エマが自分といて笑顔になってくれるのなら、会社を一度や二度サボるなんてどうってことない。
来た道を引き返し、人の流れに逆らって歩き始める。
二人の間に空いた隙間は、心做しか少し小さくなった。