第39章 時をかける
「どうかしたか?」
「いえ、アッカーマンさん本当に来てくれたって思ったら嬉しくて。」
「約束したんだから当然だろ。」
「そうですけど。でも知らない女の痴漢撃退のお礼だなんて、わざわざ面倒じゃなかったですか?」
「面倒なわけねぇだろ。そもそもお前は知らない女じゃ…ッ!」
「え?」
「…いや、なんでもない。」
「フフ、よく分からないけど面倒じゃないなら良かったです。さ、暑いし早いとこ移動しましょっか!」
すれ違う男女が手を繋いでいたり、時には女が男の腕に抱きついていたり、男が女の腰に腕を回して歩いていたりする。
リヴァイとエマも並んで歩いた。けれど二人の間には埋められない隙間が空いていて、リヴァイは少し寂しく思う。
当然といえば当然だ。今はエマとは付き合っていないのだから。
そんな事実は分かっているが、リヴァイはあの頃から変わらずエマをずっと愛している。気持ちと現実のギャップは思った以上に辛かった。
「ここです!カフェ巡りが趣味の先輩に聞いたので、味は間違いないと思います!」
高層ビルをいくつか通り過ぎ、狭い路地に入ったところにあったのは小ぢんまりとしたカフェ。
黒を基調としたモダンな外観は男一人で入っても不自然ではない感じだ。現に中に入れば、男のおひとり様もチラホラいた。
「中は意外と広いんだな。」
「ですね。土日だから座れるか不安だったけど、空いててラッキーでしたね。」
そう言いながらエマはメニュー表をリヴァイに差し出した。
受け取り目を落とすと、エマからの事前情報通りここは紅茶を売りにしていることがひと目でわかった。
「それにしても本当にここで良かったんですか?焼き肉ー!とか寿司ー!とかガッツリご飯でも良かったんですけど。」
「あぁ、いい。それに好きな食べ物を聞いてきたのはお前だろ。」
「…紅茶は食べ物じゃないですよ?」
「飲み物も食べ物も同じだ。」
「えー?」
「先輩とやらがオススメした店なんだろ?どんな上手い紅茶が飲めるのか楽しみだ。」
「まぁアッカーマンさんが満足してくれるなら何でもいっか!」
さすが紅茶を売りにしているだけあって種類が多い。一通りざっと見たが、やはりここは一番人気のものを頼むことにした。