第39章 時をかける
—それまでの記憶を全て失っていた—
—一生を添い遂げるとまで誓った恋人のことはおろか、自分が何者なのかさえも分からなくなって—
古い記憶が呼び起こされる。
いつか少女の頃のエマと聞いた、老婆の話。
違う世界へ行って帰ってきた青年が、現世の記憶を全て失っていたという話。
奥歯を噛み締めてやり過ごそうとしたが、胸の痛みは全然消えてはくれない。
認めたくない。
……そうだ、まだ出会って少ししか経っていないし、全然話もできていない。
今度ゆっくり会えるのだ。
もしかしたらその時に気がつくかもしれない。
あんなに愛し合っていたんだ。
あんなに好きだったんだ。
俺は、何百年も忘れなかったんだ。
お前も忘れたわけじゃないだろう…?
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改札を抜けて、リヴァイはもう一度スマホを覗いた。
〝改札出てすぐのコンビニの前にいます〟
彼女の連絡通りコンビニの方を見るとすぐに見つけた。
先日のかっちりしたオフィスカジュアルとはだいぶ印象が違う。女性らしい白トップスに爽やかなラベンダーカラーのロングスカート、足元はサンダル。髪は下ろして浅めのキャップを被っていた。
エマのイメージにピッタリだと思った。控えめに言ってめちゃくちゃに可愛い。
思えば今までは兵団服か部屋着しか見たことがなく、私服姿をちゃんと見るのは初めてでリヴァイは柄にもなく少し緊張した。
キョロキョロしていたエマと目が合う。ニコニコしながら小走りで近づいてきた。
それだけでどうしようもなく胸は高鳴る。しっかりしろと自分にツッコミを入れ、できるだけしゃんとした。
「待たせたな。」
「私も今さっき来たばかりなので大丈夫です。今日も暑いですね〜」
「そうだな。………」
まずい。早々に沈黙してしまった。
変に緊張しているせいか知らないが気の利いた話が振れない。
これじゃあまるで高校生の初デートじゃねぇかと自分のポンコツ具合に焦っていると、フフッと軽快な笑い声が聞こえてきた。