第39章 時をかける
期待が確信へ変わったのは一瞬だった。
ゆっくり頭が上がり、ふと胸元で光る“ソレ”を見つけて俺は言葉を失う。
ドクンドクンと心臓は壊れそうなくらい音を立て、手も震え始めた。
見間違いか…?いいや違う。
優しい光を放つ薄桃色の宝石。
忘れもしない。確かにあの時 贈ったネックレスと瓜二つ。
やはり直感は間違っていなかった。
お前は、お前が——
「もしもし?」
「ッ?!」
ハッとすると顔の前で手を振られていた。彼女が心配そうにこちらを見ている。
確信を持つと、もうそうだとしか思えなくなる。しかし俺は興奮を悟られないよう冷静を努めた。
「あぁ…なんだ」
「あの、もし時間があるようでしたらひと駅歩きませんか?」
小首を傾げ柔らかく微笑む彼女。
きゅんと胸を打たれた。それは本当に久しぶりの感覚だった。
改札を抜ければ人々は足早に目的地へ向かいだす。また今日もそれぞれの一日が始まる。自分も、彼女も同じように。
リヴァイと彼女は肩を並べ歩いていた。
「朝から暑いですね…」
「日本の夏は湿気が鬱陶しいから余計嫌になる。」
「同感です。ヨーロッパとかならもっとカラッとしてるのに。」
真夏の日差しは朝でもやはりキツく、熱せられたアスファルトがもわりと嫌な湿気を立ち上らせている。
信号を渡り、ビル影ができる通りを歩けば暑さは幾分マシになった。
「会社はどこなんですか?」
「駅出てすぐの△△ビルにある。」
「え?!△△ビルって、最近できた超優良企業ばかり入ってるあの巨大オフィスビルじゃないですか!すごい!」
「俺の会社はそこまでデカくねぇ。ウチの社長にツテがあって運良く構えることができただけだ。お前は?」
「私は駅から10分ぐらい歩くんです。オフィス街抜けたところにぽつんとあるこぢんまりしたビルの中。」
リヴァイは逸る気持ちを抑えながら、なるべく自然に会話をするよう心がけた。
向こうはまだ気が付いていないようだし、一方的に態度に出して怪しまれてはダメだ。
しかしリヴァイは名前すら聞いていないというのに、やはり揺るぎない確信を持っていた。やはり彼女はエマだ。
自分のことは、名前を言えば思い出してくれるだろうか?
それともあの頃の話をすれば…
期待と不安が入り交じる。