第38章 “またね” ※
胸の中に収められ、ふわりと香ったのは大好きな人の匂い。
エマはそれを鼻いっぱいに吸い込んで、噛み締めた。
厚い胸に頬を埋め、逞しい背中を両手で感じる。
ますます強く抱きすくめられ、鼓動を聞き温度を感じた。
愛する人には一日でも、一分一秒でも多く笑っていてほしい。
少し考えれば、エマのリヴァイに対する気持ちもリヴァイと同じだった。
愛する人の胸の中でエマも願う。
「リヴァイ、さんも…幸せ、なってください…」
啜り泣きながらもどうにか伝えた。
「そんな風に言われちゃあ素直に了解だとは言いづらいな。」
「だって…」
体を離されたかと思えば冗談めかすように言われて、エマは口を尖らす。泣くなという方が無理だと、そう言いたかった。
それを見てリヴァイはフッ笑うと、真剣な顔になってエマを見据える。
「なら、ひとつだけ我儘言ってもいいか?」
「?いいですよ」
「どこで誰と何して幸せになっても構わんが…この先もずっと俺を愛していてくれ。」
「そ…それって、さっきの言葉と矛盾してませんか…?」
「あぁそうだな。だから我儘だと言っている。しかも聞けとは言っていない。俺はお前に向かって一方的に我儘を言っただけだ。だから、それを聞くか聞かないかはお前し」
「フッ」
エマは思わず吹き出してしまった。堪えられなくて肩まで揺れる。ついさっきまで泣いていたというのに、もう感情がわからなくなってまた笑えてしまう。
「リヴァイさんが我儘言ってくれたの、初めてですね。聞きたいです、その我儘……何があってもリヴァイさんのこと、ずっと愛し続ける。」
リヴァイは一瞬丸くした目をすぐに細め薄く笑んだ。
骨ばった両手がエマの輪郭をなぞり、包む。
「俺も同じだ。死ぬまでお前を想い、愛す。いや、死んでもなおずっとだ。」
「フフ、嬉しい…」
弧を描いた唇を、親指が優しく辿った。
「愛してる。エマ」
「愛してます。リヴァイさん」
エマはゆっくり目を閉じる。重なった唇のあたたかさにまた涙が溢れた。