第38章 “またね” ※
二人の笑い声が闇に溶け、静寂が訪れる。
人々の活気で溢れる街中なのに、今はまるでこの世界に二人しかいないような、そんな錯覚に陥るほどの静けさだった。
「エマ」
夜闇に浮かび上がる建物の輪郭を見つめていると、穏やかな声がした。
そちらを向いた時ちょうど雲が切れたのか、愛しい人の顔が青白く照らされる。
「リヴァイさん…」
二人は見つめ合った。でもどちらも何も言わない。何も言えなかった、の方が正しい。少なくともエマは。
兵舎でハンジ達に別れを告げた時と一緒だ。
言いたいことは山ほどあるというのに、何かが胸につっかえて一向に言葉にならない。
もどかしいし、焦る。
何か言わなくちゃと思えば思うほど胸はつまって苦しいし、言葉の代わりに涙ばかりが出そうになる。
リヴァイも黙ってはいたが口元は時折微かに動いた。もしかしたら自分と同じ心境なのかもしれない。…いやきっとそうだ。
「エマ…」
何秒、何分の沈黙の後かは分からないけれど、リヴァイは再びエマの名を呼んだ。そして。
「お前は、幸せになれ」
揺るがない瞳はエマを見据えた。
真っ直ぐに、強い意思を宿した瞳。
揺らいだのはエマの方だった。
「お前はお前の世界でちゃんと生きて、幸せを掴め。なんでもいい。夢や目標を叶えるでも、好きなことをして充実させるでもいい。」
「リヴァイさん…」
その言葉が上辺ではないことは、リヴァイの目を見ればわかる。
エマはリヴァイから目を逸らすことなくゆっくり一度、頷いた。
でもそんな彼が次に言った一言に、エマは己の耳を疑った。
「誰かと人生を共に過ごし幸せを手に入れるでもいい。」
「!そんなのはありえません!リヴァイさん以外の誰かとなんて…そんなの…」
エマは激しく首を横に振る。
想像できないし想像したくもない。それに、リヴァイの口からそんな言葉が出るのも嫌だ。
でもやはり目を見れば、それが建前か本音かなんてすぐに分かってしまった。