第38章 “またね” ※
「天気…持つといいですね」
窓から西の空に立ちこめる一際暗い灰色を見ながら、エマは呟いた。
エマ達が宿に入ってしばらくした頃。もうすぐ日没だ。
「降られると移動が厄介だな…まぁ目くらましには最適だからその時はコイツで飛んでやってもいいが」
カコン、と軽い金属の音がしてエマは振り返る。
「立体機動装置…」
「これも“念のため”のものだ」
リヴァイは器用に一人で体にベルトを巻いていく。
これに立体機動装置を着ければ壁外調査の装備と同等だ。そこまで厳重に自分を送り届けてくれるということなのか。
リヴァイの隣にいて安心しきっていた。念の為というのは裏を返せば万が一がありえるかもしれないということだ。
自分はすでに、まさにこの中央の人間によって壁内から追放された身なのだ。その事実を再び思い知る。
あまりいい気分ではないが仕方ないし、我儘は言っていられない。
「心配するな。ここを発つまでお前のことは必ず俺が守る。難しいことは考えず大人しくしてればいい。そんなことよりだ…」
ベルトを装着し終えたリヴァイはベッドへ腰を下ろし、隣をポンポンと叩いた。
瞬間、エマの頬は緩まる。窓枠から手を離して愛する人の元へと向かった。
「なんですか?リヴァイさっ?!」
呼ばれた理由など別にどうだって良かったけれど、敢えてわざとらしく聞きながら座れば、体は強い力で引き寄せられた。
「時間がねぇんだ」
片手で抱え込まれるようにしてリヴァイの左半身に密着させられる。
「無駄にはしたくねぇ」
強引な腕の中でエマはハッとし、そして綻んだ。
少々ぶっきらぼうだが、リヴァイの気持ちは痛いほど伝わる。
エマは両手をそっとリヴァイの腰に回し、目を閉じた。
——トクン、トクン
落ち着いた、それでいて力強い鼓動に包まれて心の底から安心する。そしてとめどなく溢れる。
「リヴァイさん、愛してる」
伝えたいと思う。
上を見ると同時に唇を掬われる。
返事と言わんばかりの熱い口付け。
細い髪がぐしゃりと乱れた。後頭部を鷲掴まれて、こちらから離すことはもうできなくなる。
リヴァイの愛を一心に受け止めながら、エマはリヴァイの首に腕を巻き付け自らの愛も注いだ。