第38章 “またね” ※
すぐさま目で追ったけれど、すでにエマに背を向けてしまっていたから顔は見えなかった。
「中央に入ったら憲兵がそこら中を彷徨いてる。どこで誰がお前に気づくか分からねぇからそのフードは絶対に取るな。それと、俺から片時も離れるな。」
「はい…」
リヴァイは背を向けたままエマへ伝えると、イーグルの方へ向かっていってしまった。
その背中に返事をして、エマはリヴァイの後を追いかける。
本当にもう、後戻りはできないのだ。
静かな森の中にはふたつの足音と、せらせらと流れる川の音だけが残された。
——————————————————————
ウォール・シーナに入って少し行ったところで、エマ達は馬を降りた。辺りはちょうど晴れていたら夕焼けに染まる時間だった。
今だに灰色が続いていて、今日は夕日を拝めそうもない。
全く見覚えのない景色。目的地はもう少し奥だと思うのだが、リヴァイはとある建物の厩舎へとイーグルを預けに行ってしまった。
「あの、休憩ですか?」
小走りで追いかけながらリヴァイの背へ問う。
「いや…今からここでしばらく身を隠す。人通りが止むまでは中央へは近づかん。深夜にここを立ち、ここから歩いて井戸を目指す。」
リヴァイは話しながら手際良くイーグルを繋ぎ軽くブラッシングを終えると、不安げなエマの頭をポンポンと撫でた。
「クソ詰まったような顔すんじゃねぇよ。念のための話だ。リスクは出来る限り回避しとかねぇとな。
それと、ここはエルヴィンがはからった宿で、宿主には事情を話してあるから安心しろ。とはいえ、お前がどこの誰かまでここの主は知らねぇし、余計な心配はしなくていい」
「はい…ありがとうございます」
骨ばった手に引かれ、エマは歩き出した。
不安はすぐに和らいだ。
リヴァイはいつも、嘘や迷いのないまっすぐな言葉でエマを導いてくれる。
リヴァイが隣にいてくれるのは本当に心強い。
一歩前をゆく頼もしい背中に思わず抱きついてしまいたくなる衝動を抑えながら、エマは人知れず小さな笑みを零していた。