第38章 “またね” ※
許されるのなら、この狭い部屋で一生を過ごしてもいいとさえ思った。
一生外の空気を吸えなくても、他の誰とも会うことができなくても。
あなたさえいてくれたらそれでいいと、本気で。
「どこにも行くな…」
苦しげに絞り出された本音を聞いて、私も泣いた。
あなたの目は、涙こそ出ていないけれど、私には泣いているように見えたの。
さっき屋上で話した時は笑ったけれど、本当は心のどこかでその言葉を言ってくれないかと待ち望んでいた。
〝行くな〟
そう言ってほしいと。
だから、今流れているのは嬉し涙なのかな。
でもだとしたら、どうしてこんなに苦しいの?
苦しくて苦しくて、胸が張り裂けてしまいそう。
リヴァイさん、リヴァイさん、
私も、ここにいたいよ…
エマは分厚く、硬い背中を抱いた。
肩に顔を埋めているせいでリヴァイの表情は分からない。
「……絶対。絶対…待ってますから…何百年先になっても。絶対、忘れないから…」
とうとう本音は言えなかった。
いや、こう言うしかなかった。
選べないのだ。
〝残る〟という選択肢は、もう。
叶わない未来を望んでも、得るのは虚無感ばかりで、リヴァイも自分も辛くなるだけだ。
そしてそれはきっと、リヴァイだって分かっているはず。
“どこにも行くな”
彼の口から絞り出された言葉を聞いて流れたこの涙は、嬉し涙じゃない。
抗えない運命に対しての、悔し涙。
そして、じきにこの手を離さなければいけない、悲し涙。
“すまない”
消え入りそうな声は、聞いたことがないほど弱々しい。
エマは回した腕に力を込め、名前を呼んだ。
「ひとつ、お願いしてもいいですか?」
「…なんだ」
「……中に…ください」
リヴァイの動きが止まった気がした。
もともとじっとしていたけれど、瞬きや呼吸まで止まったような。
「お前…そりゃあ…」
明らかに動揺した声。
それもそうだろう。自分だってこんなことを言うなんて、思いもしなかった。それでも、
「欲しいんです…全部。リヴァイさんの証を、ひとつ残らず刻んでください」
エマは本気だった。