第38章 “またね” ※
できることなら、このまま溶け合ってひとつになってしまいたい。
あなたが私で私があなたになれば、離れる必要なんてなくなる。命の終わりだって一緒に迎えられる。
一生、どちらかが取り残されることのない人生は、どんなに幸せだろう。
けれど、そんなことは不可能だと分かっている。
分かっているからせめて、〝あなた〟を余すことなく注いでほしい。
リヴァイは吃驚したあと眉を顰めた。
エマが求めているのは、今まで自らが避けてきた行為だ。
孕ませて、一生その命を守れるかと聞かれたら、胸を張ってイエスとは答えられないから。
その強さゆえ〝死〟から最も遠い男だと言われていても、そんなものは当てにならない。
腐っても調査兵なのだ。死のリスクは壁内で暮らす者より格段に上がる。
無責任なことはしたくなかったのだ。
例え同意の上だったとしても、自分が死ねば愛する家族を守れないどころか、下手をしたら実母と自分のような人生を歩ませてしまうかもしれない。
大切だからこそ、傷つけるかもしれない道は選びたくない。
ただそれだけだった。
だが、目の前の瞳は揺るがなかった。
「……いいのか」
リヴァイはその瞳をじっと見据え、はっきりした口調で問う。
エマの答えはやはり〝イエス〟だった。
「万が一があったらどうする…俺はお前を守ることさえも」
「万が一が起きてほしい、と思う私は馬鹿ですか?」
自虐的な笑みを湛えながら被せたエマに、
リヴァイは再び目を見開いた。
エマは少し照れながら、そして優しく微笑みながら続ける。
「軽く考えすぎですか?…でももし授かったら、私は幸せだと思える自信がある。
それに、きっとずっと、リヴァイさんのことを忘れないでいられる。…あれ…でもこれじゃあ私だけが幸せみたいな……やだ、独りよがり言ってるだけですね…ごめんなさい。
もちろん、リヴァイさんと一緒に生きていければ何より嬉しいんですけど、でも…」
「エマ」
一人で喋って困まり顔をするエマを、リヴァイは呼んだ。