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【進撃の巨人】時をかける—【リヴァイ】

第38章 “またね” ※




「皆さんには、感謝してもしきれません。」

隣に座るよう促されて座ったはいいものの、リヴァイは口を噤んだまま。代わりにエマが喋った。

肌に伝わる温度。温かいというより生ぬるいと感じるそれがリヴァイの体温だということを、エマの手のひらはしっかり憶えている。

「もちろん、リヴァイさんにも。」

横を向けば目が合う。何か言いたそうな顔だが口開かれず、繋いだ手に僅かに力がこもる。エマも同じだけの力で握り返す。

「……あぁ」

相槌と言うには程遠いような間があって、一言だけ零した返事。会話は途切れた。


さっきからリヴァイが何を言い淀んでいるのか、何を考えているのかは何となくエマには分かる気がした。

だってエマもきっと今、同じようなことを考えているから。

そしてそれを言葉にしない理由も分かる。
口にすればますます不安は大きくなるかもしれない。どうにもならない現実に嘆き悲しみたくなるかもしれない。そんな漠然とした怖さがある。

それでも、もし同じ不安を感じているなら、二人で分け合った方がいい。
我慢して、負に押し潰されてしまうくらいなら、辛いと一緒に涙したほうが少しはマシなのではないか。


「まだ、」

エマが再び口を開こうとした時、声がした。その場にじっと佇んでいる空気を揺らす、低く芯のある声。

「記憶はあるのか?お前の故郷の」

「……あります。今回は親友の名前も憶えてる。」

エマの返事に“そうか”とだけ呟き、また沈黙が降る。
その表情には迷いが含まれている気がした。次の質問を言うべきか否かという迷いだ。

だからエマはなるべく笑った。
リヴァイの不安を、エマ自身の不安を打ち消すように明るく笑って言う。


「私は信じます。1%でも記憶を保てる可能性があるなら、それを信じて、忘れない努力をする。
このネックレスも毎日つける。これを見るたび、触れるたびにリヴァイさんを思い出します。マントだって部屋に飾って毎日眺める。絶対です!」

胸元で輝く薄桃色の石を握りしめ、エマは前のめりになって語った。どの言葉も間違いなく本心だ。

“フッ”と鼻から抜けるような笑いとともに、思い詰めたようなリヴァイの表情が和らいだ。



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