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【進撃の巨人】時をかける—【リヴァイ】

第38章 “またね” ※




「正直悔しい。この壁の意味不明な決まりのせいで、エマの居場所が奪われてしまったことが悔しくてたまらない。そして申し訳なく思う。けれど…
不条理で理不尽な世界だけど、ここで過ごした日々まで悲しい思い出になってほしくはないんだ。」


“だから今日くらいは、めいっぱい楽しんでほしくて”


優しく微笑むハンジの目尻が光を反射した気がするけれど、酷くぼやけてしまった視界ではそれが定かどうかが分からない。

一度大きく瞬きをするとまた涙が零れ、少し景色が鮮明になり今度はしっかり見えた。やはり眼鏡の向こうは潤んでいた。


「こんなことしかできないんだけど、少しはエマの——」


話の途中で、グラりとハンジの体が揺れる。エマが彼女の胸に飛び込んだからだ。


「ハンジさんっ、ハンジさん…!」


エマはハンジの胸で泣きながら名前を呼んだ。
ハンジの言葉一つ一つが嬉しくて、でもそれ以上に寂しくてたまらなくて。心臓はぎゅっと鷲掴みにされたみたいに痛む。

背中に腕が周り、頭にポンと手が乗った。


「私だけじゃなくて、ここにいる全員がそう思ってるから。」

「そうよ!私たちエマのことが大好きなんだから!…ずっと忘れないから!」

顔を上げれば、目に涙をいっぱい溜めたペトラが微笑む。
オルオもグンタもエルドもミケもエルヴィンも、同じように優しい眼差しをエマへ向けていた。


「っ…ありがとう……」













一一一一一一一一一一一一一一一一一一


描かれた双翼が見えるよう畳んだ外套を、制服の上に積み重ねる。

“制服”というのは兵服を指すのではなく、約五ヶ月間袖を通すことなく保管されていた、エマの学校の制服のことだ。

それらを紙袋に大切にしまい込み、テーブルの上に置いた。


「準備はできたのか?」

「はい」

後ろから現れたリヴァイが紙袋を覗く。その手にはコップ一杯の水。
酒に強いリヴァイだが、体内のアルコールを中和させるために、酒を飲んだあとは必ず水を飲むのが習慣だと前に話していたのを思い出す。

いつの間にかベッドに腰掛けたリヴァイがちょいちょいと手招きしている。
エマは紙袋をそっと撫で、リヴァイの元へ向かった。



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