第37章 帰還、残された時間
「理由がないのに赤くなるわけねぇだろ」
僅かに口角を上げて聞いてくるのをみて、これはまさか確信犯なんじゃないかとエマは思う。
だから、“聞かなくても知ってるくせに!”なんて一言ぐらい言ってやってもよかったかもしれない。けれど、
「……リ…リヴァイさんが、お酒飲む姿がその……色っぽくて…」
エマの場合たいていはこうだ。強気なリヴァイに押されると何でもかんでも素直に吐いてしまう。
そうなれば、どんどんリヴァイのペースにはまっていってしまうと頭で分かっていても、何もかも見透かすような視線は自白剤のような作用があるのか、どうにも口を止められないのだ。
「ほう…つまりわかりやすく言うと、人が酒飲んでるのをお前はエロい目で見てたってわけか?」
「そっ!そんなことは決して!ただリヴァイさんがかっこいいなって思ってしまったらその…急にドキドキして、隣にいるのが恥ずかしくなっちゃって…」
焦りながら理由をペラペラ喋ればリヴァイはまるでからかうように小さく鼻で笑うから、エマはまたも本人の前で赤面することになってしまった。
このままリヴァイに喋らせているとますます墓穴を掘るかもしれないと、エマは慌てて話題を逸らそうと口を開く。
「あの…怒らないんですか?勝手に外へ出たこと。」
「少しは心配したが、何となくお前とペトラなら外へ出るっつってもちゃんと気をつけるだろうと思ってた。案の定、居場所も予想通りそう遠くもない所だったしな。」
「すごいです…リヴァイさんはいつも、私のことお見通しですね。」
やっぱりお咎めを受けることはなく、エマはほっと胸を撫で下ろし眉を下げる。
リヴァイは組んだ腕を崩さず手摺に背をもたれたままで、胸に手を当てているエマを一瞥すると、スっと前を向いて呟いた。
「見てるからな」
「え?」
「お前のことは誰よりもよく見てる」
まっすぐ正面を向くリヴァイの視線の先には鉄の扉。
エマは半月の瞬きに浮かび上がるその美しい横顔を前に、人知れずはにかんでしまうのだった。