第37章 帰還、残された時間
「!…いや、気にするな」
突然大きな声で花の世話をしてくれてありがとうなどと言われ、ミケは少し焦った様子だった。
そのリアクションを見る限り、花の世話は密かにしていたことで、あまり人には知られたくなかったのだろう。照れなのか頬もほんのり色づいてきた。
「え?ミケが花の世話?!珍しい!…っていうか、ミケが花って全然イメージ湧かないんだけど!アハハ!」
それはミケの後ろでモブリットとエルドと立ち話をしていたハンジの耳にも入ったようで、面白可笑しくからかうように言いながらトクトクと酒瓶をミケに注ぐ。頬を紅潮させ早くもテンションは有頂天のようだった。
「ハンジ…日増しに酒癖悪くなってないか?」
「えー?全然そんなことない!」
「分隊長はここ何日かろくに睡眠も取らず研究に明け暮れてるせいだと…」
「まったく、体調くらい整えておけよあのメガネ…モブリット、くれぐれもコイツが粗相しねぇように見張っとけよ。」
ミケの隣に座るリヴァイがモブリットに念を押し、おもむろにグラスを手に取った。
中の赤紫色を二、三度揺らして喉を鳴らす。その時の伏せた流し目がアンニュイな雰囲気を纏っていて、溢れんばかりの色気を放つ。
斜め隣に座るエマは、そんなリヴァイの仕草に人知れず魅了されていた。
新兵歓迎会の時も思ったけれど、リヴァイが酒を飲む時の仕草にはとても色気がある。思わずうっとりしてしまうほど大好きな仕草だ。
「エマ!」
「わっ!何ペトラ、急に!」
リヴァイに見惚れていると急に肩を叩かれてエマはドキリとし、体はビクッと跳ね上がった。
叩いた本人は頬杖を付きながら何やら含みのある笑みを浮かべている。
瞬間、エマはしまったと思った。リヴァイへ向ける熱い視線を、ペトラに見られてしまったと。
そう思ったのも束の間、ペトラの反対側から視線を感じチラリと目視すると、銀鼠色の瞳だけがエマを捉えていて、頬は瞬時に熱を持つ。リヴァイは次の瞬間には何か喋りだしそうな、そんな雰囲気だ。
「ペトラ!ちょっとついてきてほしい!」
「え、ちょっ」
エマはペトラの腕を掴み、逃げるように席を立ち扉へ向かった。
意識すればするほど頬が上気してしまうのを止められなくて、恥ずかしすぎてリヴァイの隣にいられなくなってしまったのだ。