第37章 帰還、残された時間
「そろそろ始めましょうぜ!せっかくの料理も冷めちまいますし!」
オルオの一声で場の空気が纏まり、間にペトラとモブリットが注いでくれていた飲み物が全員に回ったところで、今回の幹事であるハンジが立ち上がった。
右手には今しがた注がれたばかりの濃い赤紫をした葡萄酒が掲げられる。
「よぉし!今日はめでたい日だから無礼講だ!酒も料理もたくさんあるからみんな遠慮せずに食べてくれ!それじゃ、エマの誕生日を祝って、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
ハンジの音頭を合図にカチンとグラスのぶつかる涼し気な音が鳴り響く。
少し早めの、エマの誕生日を祝うささやかなパーティの始まりだ。
*
それぞれに酒を呷ったり、料理をつついたり思い思い時を過ごしていた。
そんな中皆が代わる代わる訪れたのは、やはりエマのところだ。
調査兵団に戻ってきて、一通り救出作戦のお礼は全員に伝えてはいたものの、逆に言えばその時に少し話しただけだったので、こうして皆と腰を据えて話すのはとても久しぶりのことだった。
「エマがお世話してたかすみ草、だいぶ蕾が膨らんできたのよ!あと一週間もすれば咲くんじゃないかしら?」
「ペトラ、代わりにお世話してくれてありがとう。綺麗に咲いてくれるとといいな。」
「それがねぇ、私半分くらいしか行けてなくて。いつも行くと、先に水やりも雑草抜きも終わってるの!」
「え?じゃあペトラの他に誰かが?」
「フフ、実は…ミケさんがね!」
「え?!」
ハンジが座っていた席に腰掛けたペトラが、ミケにチラリと目線をやりながら“意外よね?”と声を弾ませ耳打ちする。
リヴァイから、花壇の世話はペトラがしていると聞いていたからそうだとばかり思っていたけれど、まさかミケまでやってくれていたとは。
いつかの早朝、ミケと二人でかすみ草の種を撒いたことを思い出した。驚いたけれど素直に嬉しい。
「ミケさん!かすみ草のお世話、してくださってたんですね。ありがとうございます!」
エマは斜め向かいに座るミケへ感謝を伝えた。
少し離れているし周りは騒がしいのでそこそこに声を張る。