第37章 帰還、残された時間
リヴァイもエマと同じようなことを考えていた。
敢えて送別会としてではなく、“少し早い誕生日パーティ”としてエマを囲んでくれたのは、きっとハンジたちなりのはからいなのだろう。
“別れ”を意識してしみじみするより、最後こそ楽しい思い出になるようなひと時を過ごしてほしいと、きっとそんな風に思って。
エマ同様、わけも分からず連れてこられたリヴァイだったが、ハンジたちの気持ちに気がつけばこういう会も悪くないと思い至る。
エマにとって調査兵団での思い出は、何も自分と過ごした日々だけではないのだ。
そう思えば二人きりでいたかった気持ちは自然と引っ込んで、エマにはめいっぱい楽しんでほしいと思える。
ただ、ひとつ気がかりはあるのだが。
「来月、誕生日だったんだな。」
「あ、はい実は。6月20日です。」
「え?!リヴァイ知らなかったの?!」
「いちいちうるせぇな。知らなくて悪いかよ。」
まさか恋人ご彼女の誕生日を知らなかったなんて。という本音がダダ漏れのハンジのリアクションに悪態をつきながら、でもやはり少しばかり、自分だけエマの誕生日を知らなかったことを悔しく思ってしまったのも正直なところで。
心の中でほんの少しだけ不貞腐れていると、純粋無垢な笑顔がリヴァイに向いた。
「そう言えば誕生日の話したことなかったですもんね。そうだ!私もリヴァイさんの誕生日知らない!いつなんですか?」
「12月25日だ」
「クリスマス?!素敵です!!誕生日がクリスマスだなんて!」
「別に普通だ」
「ねぇー!顔に似合わずロマンチックだろ?」
「てめぇはそのロクでもねぇことばかり喋る口を、二度と開けなくしてほしいみてぇだな」
「ハハ…それは勘弁」
純粋な笑顔に和らいだ表情も、ハンジの余計な一言のせいで途端に眉間に皺が寄ってしまった。
しかし苦笑いを浮かべるハンジの横で、エマはカラッと笑う。
「でも、クリスマスが誕生日って覚えやすいですよね!それなら、ずっと忘れないと思います!」
明るく無邪気なその表情はリヴァイの大好きなエマの顔だ。
こんな些細なことでも気分を和らげてくれるエマの笑顔は、いつかミケに言われた通り己の精神安定剤なのだなと、自分で思ってしまった。