第37章 帰還、残された時間
「これは…」
エマはリヴァイと反対の斜め隣に座ったハンジに問いかける。するとハンジはニッコリ笑ってこう言った。
「今からエマのバースデーパーティをするんだよ!」
「は?」「え?」
完全なるデジャブである。数分前と同じくリヴァイとエマの間抜けな声が重なり、ハンジは思わず吹き出した。
「わ、私…誕生日はまだ先ですよ?」
エマは戸惑いながらハンジに訊ねた。
そう。エマの誕生日は今日でなければ、ましてや今月でもない。誕生日は6月20日だ。今は5月下旬だからまだ一ヶ月もある。
「先って言っても来月だろう?ちょっと早いけど、こんなのは誤差ってことで、今日やろうってことになったんだよ!」
「え、でも」
「でもじゃないぞエマ。俺たちは皆今日、お前を祝いたくて集まったんだ。その気持ちを受け取ってはくれないのか?」
ハンジから理由を聞いて益々オロオロするエマに被せてきたのは、ニカッと笑うエルドだ。その隣でグンタもうんうんと頷いている。
「いや、そういうわけじゃ…」
「細かいことは気にするな。皆せっかく君のために準備したんだから、素直に喜んでくれると我々も嬉しいんだが。」
「モブリットなんて、今日のために昨日の晩はほぼ寝ずにこの部屋を掃除させられたらしいぞ?」
エルヴィンがミケの後ろからひょいと顔を出して微笑むと、ミケも便乗する。
ミケから同情するような視線を受け取ったモブリットは後頭部を掻きながら“まいった”というような顔をしていた。
言われてぐるりと見渡すと、確かにハンジの部屋とは思えないほど整理整頓され清潔を保たれている。モブリットの努力の結晶を目の当たりにした。
突如開催された自分の誕生日パーティ。
驚きと戸惑いに圧倒されていたけれど、皆の言う通りせっかく自分のために準備してくれて集まってくれたのだから、素直に楽しもうとエマは思い始めた。
それに。
「あの…すごく嬉しいです」
こうして皆と過ごせるのは今日が最後なのだ。
そしてここにいるのは、エマが明日、調査兵団を発つことを知っているメンバーばかり。
今日突然、一ヶ月も早い誕生日パーティを開催してくれた理由は、きっとそういうことなのだろうとエマは気がついたのだ。