第37章 帰還、残された時間
エマを退団したことにする、という話は、エマにとってもハンジをはじめ今回の一件を知る仲間にとってもとても辛い話だった。
だが事件が起きてしまった以上、エマを安全に護るためにはそうせざるを得なかった。
他の兵士にここに居ることがバレてしまっては、ダメなのだ。
そしてそのことは、エマが誰よりも深く理解しているつもりだった。
そのため、今のようにここを誰かが訪ねてくるときは、念の為エマは身を隠すようにしていたのだ。
「部屋の外に、出られる…?」
驚きと戸惑いを浮かべるエマ。リヴァイも片眉をピクリと上げて、ハンジの発言を訝しむような顔をする。
「そんなに警戒しなくても大丈夫!もうすぐ夕食どきだし、みんな食堂に集まるから誰かに見つかる心配は限りなく少なくなる。」
「エマを連れ出すのなら先に行き先を教えろ。あまりこんな風に言いたくはねぇが…まさか兵舎の外へ連れ出すなんてことねぇよな?」
「リヴァイも心配症だなー!大丈夫!目的地はすぐそこだから!」
怪訝そうな二人にはお構い無しな様子で、ハンジはあっけらかんと答える。
どうやらそこまで警戒する必要もなさそうだが、それにしたって今からエマをどこへ連れていき、何をすると言うのだろうか。
日もだいぶ落ちて、もうすぐ夜を迎えようとしているというのに。
その疑問をリヴァイが口にした瞬間、ハンジの目の色がギラりと変化したのだった。
「よくぞ聞いてくれたぁ!今日はエマに、とっておきのハッピーニュースがあるんだよ!」
「は、ハッピーニュース…?」
「だからその内容が知りてぇんだ。意味不明な言い回しは止めてさっさと教えろよ。」
頭に疑問符を浮かべるエマと眉間に皺を寄せるリヴァイを見て、ハンジはニヤリと口角を上げ笑う。おおよそ予想通りの反応に満足している、といったような表情で。
「ニシシ…それは今は言えない。着いてからのお楽しみさ!」
「は?」「え?」
怪しさを多分に含むハンジの言い方に、二人は揃って素っ頓狂な声を出し顔を見合せた。