第37章 帰還、残された時間
リヴァイがドアを開けると、両手を前に突き出しダイブするように部屋へ転がり込んできたのはやはりハンジだった。
そのハンジとぶつかりそうになる手前でひらりと躱したリヴァイは、ドアを閉めながら蹲る背中に低い声を浴びせる。
「いきなり何の用だ」
「いったぁ〜、もう!普通はドア開ける前に返事するなりなんか言うでしょ?!」
「てめぇが生き急いでドアを押すからだろうが。」
「アッハハ!はやる気持ちが抑えらんなくてついさ!って、なんか機嫌悪くない…?」
「チッ、誰のせいで……はぁ、まぁいい。それで用件はなんだ。」
腕を組み仁王立ちで威圧感を漂わせるリヴァイは、いかにも早く出ていってほしいと言わんばかりだ。
それもそのはず、こちとらまさに今からエマとの貴重な甘いひとときを過ごす気満々でいたのだから。
そんな彼の気持ちを知る由もないハンジは、ズレた眼鏡を掛け直し、後ろ手をついて座り込んだまま呑気な顔でリヴァイを見上げる。
「そんなに急かさないでよ。あなた達にせっかくハッピーニュースを届けに来たっていうのに!」
「は…?」
「エマー!ここには私の他に誰もいないから出てきて大丈夫だよー!」
ハンジのよく分からない横文字にリヴァイが顔を顰めていると、ハンジは勝手にエマを呼び出してしまった。
「ハンジさん!」
部屋の死角に身を隠していたエマはひょっこり顔を出し、ハンジに手招きをされてドアへと向かう。
「エマ、連日窮屈な思いをさせてごめんね。でも今日は久しぶりに部屋の外へ出られそうなんだ!」
ハンジの言う窮屈な思いとは、エマが兵舎に戻ってきてからずっと、リヴァイの部屋での生活を余儀なくされていることを指している。
あの事件以降、実は表向きとしては、エマは一身上の都合で調査兵団を退団し故郷のトーリアに帰ったとされていたのだ。
ここでリヴァイが匿っていることを知っているのは、ハンジとエルヴィン、モブリット、それにエマの救出作戦に携わったミケとリヴァイ班の四人のみなのである。