第37章 帰還、残された時間
後頭部に添えたリヴァイの手に力がこもる。片時も離したくなかった。
キスの合間に漏れる吐息が湿り気を帯びてきて、エマが呼応し始めているのだと分かる。
ただ掬い絡め取られるだけだった舌も、自分からリヴァイを求めて動くようになった。
吸い付いては離れを繰り返しそのたびに何度も角度を変え、深く、濃い口付けを交わしながら、二人はもつれ合うようにシーツの海へと沈んだ。
このまま、何も考えずにただ互いの存在を感じ合う。
ただそれだけのことが、今の二人にとってはこの上なく贅沢なことで、もう何度も許されることではないのだ。
だいぶ日も落ちた。
まだ仕事は残っているし夕食や風呂もあるけれど、今日はこのまま一晩中エマを抱いていたいとリヴァイはそう思いはじめていた。
「はぁっ、リヴァ…んん」
息継ぎの僅かな間に名を呼んだエマは早くも欲しがる女の顔をしていて、リヴァイは己の雄がズクリと反応するのを感じる。
「今日はもう離さねぇ」
呟くように言って、エマの胸元に手をかけた。
そして。プチとひとつボタンが外れるのと、その音がしたのはほぼ同時だった。
「リッヴァーーーイ!!!」
「?!」
「………。」
驚いて目を丸めるエマと、エマから表情が見えないように下を向くリヴァイ。
「今の声…ハンジさんですよね?」
「…チッ」
エマは察した。
リヴァイが自分に顔を見せないように下を向いたのと、すこぶる機嫌の悪そうな舌打ちを聞いて。
つまりハンジに邪魔をされたと、リヴァイはそう言いたいのだろう。
エマは苦笑いを浮かべた。
エマとてその気になっていたからリヴァイの気持ちはよく分かる。正直、なんで今…と言いたい。
「あいつは何故いつも狙ったように現れやがるんだ…覗いてんのか?」
「た…たまたまですよきっと…あ、ほら!もしかしたら大事な用事かもしれないし!」
二人が話している間も、リヴァイを呼ぶ声とノックは止まない。
「あんな馬鹿みてぇなテンションで大事な話なわけがあるかよ。」
顰め面で悪態をつきながらも、腰を上げてちゃんとドアへ向かうリヴァイはやはりリヴァイだ。
そう思いながら、エマはその背中を見つめながら眉を下げて微笑んだ。