第37章 帰還、残された時間
「子供じみてるなんてそんなこと!私も髪触られるの、好きですよ?気持ちいし、なんか安心するし。」
「もうこの話はやめにするぞ。」
無理やり話を切り上げると、ボスッとベッド腰を下ろしたリヴァイ。その隣にエマも座り、名前を呼ぶ。
「リヴァイさん」
「なんだ。っ!」
まだ何かあるのかと浮かない顔をしながらリヴァイが顔を上げた瞬間、ふわっと頭頂部に乗った重みは掌だった。
するりと表面を滑り下りて、毛先までいくとまた滑る。優しさしかない手つき。それを何度も繰り返し。
「へへ、好きって言われたら、もっとしてあげたくなっちゃって。」
髪を撫でながらリヴァイを覗き込むエマの表情には、あたたかさが溢れていた。
「…余計な真似はよせよ。髪を切ってくれただけでもうじゅうぶ」
「今は私がしたくてしてるんです。…それに……たまには甘えてくださいよ。」
「!」
そう言ったエマは、確かに笑っていた。ニッコリと嬉しそうな顔をして。
なのに何故だろう。その笑顔を見て途端に胸が苦しくなったのは。
その笑顔の奥にある、“本音”を垣間見てしまったから…?
「リヴァイさんがしてほしいこと、全部は無理でも、一個でも多く叶えてあげたいと思うじゃないですか!」
明るい声で紡がれたのは、エマの切実な願いだ。
気丈な振る舞いの影に見え隠れしていたのは、寂しさ。それをリヴァイは見逃さなかった。
「リヴァイさんの髪、やっぱりサラサラで綺麗……っ!!」
リヴァイは無言で髪を撫でる手首を掴むと、エマを引き寄せた。
勢いよく重なった唇は歯がぶつかってしまったけれど、それでも離さまいとエマの唇を自身の唇で包み込む。
優しく、そっと愛を与えるようなキスは、リヴァイがエマの後頭部に手を添えたことで、本心をぶつけるようなそれへと変化していった。
「っ……どうし、んんっ…」
これ以上は無理だった。
エマの切ない顔を見るのも、これ以上“最後なのだ”と意識するのも。
だからリヴァイは塞いだ。
もうどちらも、余計なことを口走って傷つかないように、エマの唇も、己の唇も。
塞いで、このひと時だけは都合の悪いことは全部忘れて、ただ単純に互いを求め合う気持ちだけになりたいと、そう願って——