第37章 帰還、残された時間
「別に理由なんざ何だっていいだろう。」
しかしリヴァイの返答は曖昧だった。
でもこの言い方は、理由がないわけではなさそうだ。
「…ってことは、やっぱり何か理由があってなんですね?」
そう思えば、エマはどうしてもそのワケが知りたくなって益々問い質してしまう。
「素人に散髪を頼むなんて絶対しなさそうなのに、どうして急に?すんごく気になっちゃいます!」
「わざわざ話すほどのことじゃねぇよ。」
「気になります!教えてください!」
「聞いて何になるってんだ。」
「何にもならないけど…知りたいから聞きたいんです!それだけです!」
聞き始めたら何となく引き下がれなくなって、押し問答になっていってしまった。
そしてしばらくやり取りしていると、リヴァイはハァと諦めたようなため息を零して、やっとその硬い口を開いたのだった。
しかしその理由はエマがまったく予想だにしていないもので、彼女は度肝を抜かれることとなる。
「好きだからだ」
「…へ?」
「髪を触られるのが好きだからだ。」
エマは丸い目をぱちくりさせた。
今、リヴァイさんはなんて言ったの?
目を逸らしバツの悪そうな顔をするリヴァイから微かな、でも確かな恥じらいが伝わると、エマの見開いていた目は無意識のうちに三日月ように細まって、笑みを漏らしてしまった。
「フ…フフッ」
「人の顔を見て笑うなよ。失礼な奴だな。」
「ごめんなさい…!でも今すごく、」
“リヴァイさんのこと、可愛いって思っちゃいました”
と最後まで言う前にリヴァイは椅子から立ち上がり、そそくさとベッドの方へ歩いていってしまう。
機嫌を損ねただろうか?エマは笑ってしまったことを申し訳なく思ってリヴァイの後を追った。
「あの、機嫌を悪くしないでくださいリヴァイさん、別にからかうとかそういう意味で言ったんじゃ」
「分かってる。ただ自分で言っといて子供じみてるなと嫌になっただけだ。」
サイドテーブルに置かれた水を一気に飲み干したリヴァイは、ボリボリとこめかみを掻きながらまだ決まりの悪そうな顔をしていて。
それを見たエマはリヴァイに申し訳ないと思いつつも、やはり頬が緩んでしまうのを止められなかった。