第37章 帰還、残された時間
抱きしめられているのは自分よりひと回り大きい体なはずなのに、彼の方が小さく感じてしまうのはどうしてだろう。
胸がズキズキと痛む。
エマにとって、リヴァイに抱きしめられてこんな風に胸が痛むのは初めてだった。
何も話さないまま腕に力が込もり、苦しさは増す。
肺が圧迫される物理的な苦しさもそうだが、リヴァイの気持ちがひしひしと伝わることにより感じる苦しさの方が大きい。
エマはリヴァイの後頭部に手を回し、そっと撫でた。
「そばに、いてください」
それは彼を丸ごと包み込むような、優しく穏やかな声。
自分も辛かったのに今は不思議とそう感じなかった。
押し潰されそうになっているリヴァイを前にしたら、ただ彼を“守りたい”とそう思ったのだ。
「本当は私も、一分一秒でも長く一緒にいたい。一瞬だって無駄にしたくない。少しでもたくさん、リヴァイさんの隣にいたい…」
返事はなく、代わりに鼻で深く息を吸う音がして、回された腕がさらにギュッと締まる。
だからエマも力いっぱい抱きしめた。
痛みを少しでも分け合うことができるようにと、精一杯。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一
残された時間を、二人はできる限りともに過ごした。
寝食はもちろん執務もリヴァイの部屋で。
そしてなんとエルヴィンの計らいで、リヴァイの訓練は3日間休みとなった。
それに関してはさすがにエマも実務に支障をきたすのではないかと焦ったのだが、当のエルヴィンはまったくもって取り合ってくれななくて。
それに本人も、“3日くらい休んだってすぐに挽回できる”と気にしていない様子だった。
ならば仕方がないとエマも折れたのだが、しかしそのおかげで二人の時間は格段に増えたわけであって、やはり嬉しくないわけがなかった。
「この紅茶爽やかですね!香りも口当たりも!」
「柑橘系の葉がブレンドされてるからな。これからの季節にはこういうのも悪くない。」
あれから二日後の昼下がり。エマたちは丸テーブルを挟んでゆったりとお茶をしていた。
忙しいリヴァイと兵舎でゆっくり過ごすなんて初めてかもしれない。不思議な感覚だったけれど、エマはこのかけがえのない幸せを噛み締めていた。