第37章 帰還、残された時間
「リヴァイさんも、怖い……同じ、気持ち…」
「平気なように見えたか?」
茫然たる顔でリヴァイの言葉を繰り返すエマに、リヴァイは悪戯っぽく言ってみせた。
今のリヴァイにできる、精一杯の強がりだ。
「い、いえそんなことは……でも…」
「でも?」
「分からなくて……昼間、団長と三人で話してる時から今までずっと、リヴァイさんの考えてることが……
いや。私が知ろうとしていなかったのかもしれない……もし本心を知ったら、それこそ覚悟できなくなっちゃう気がして、だからわざと、考えないようにして…」
エマは自分の気持ちを確かめるように、ゆっくりと一言一言紡いでいる。リヴァイは黙って耳を傾けていた。
ふと、掌の中で拳が微かに震える。エマがグッと握り締めたのだと分かった。
「私…自分のことばっかりでした。決意が揺らぐのが怖いからとか、辛くなるからとか……そのあまり、リヴァイさんも同じくらい苦しいってことから、目を逸らして……ごめんなさい、」
“本当、馬鹿ですね”
自嘲するように言う彼女の顔を見て、リヴァイは己の目を丸く見開いた。
儚く、美しい笑み。
それは、出会った当初のエマからは想像もつかないくらいほど淑やかな女性の顔で、少しの傷ですぐに壊れてしまいそうな脆さも孕んでいた。
いつの間にこんな顔をするようになったのだろう。
齢18の少女から垣間見える大人びた女の表情に、リヴァイはドキリとしたのだ。
そして同時に、彼女が大人になるまで一緒にいてやれないのだと気付けば、言葉よりも行動の方が早かった。
「! ……リヴァイさん…?」
華奢な身体をきつく抱く。エマの背が反ってしまうほどに、きつく。
「く、るしいです…」
「すまない、だが無理だ」
“行くな”
そう漏らしてしまいそうだった。
けれどその一言だけは絶対に言うまいと飲み込んで、代わりに腕に力を込める。
誰の目にも触れないように。
このまま大事にしまっておけば、エマはこの世界で安全に暮らせるだろうか。
翼をもがれ飛べなくなった代わりに、どうにかして俺が幸せを与えてやるから。
だから、もうどこへも行けないよう、お前を——