第37章 帰還、残された時間
「……なるべく、“普通”にしたくて」
ポツリポツリとか細い声で話し始めたエマをリヴァイはじっと見つめた。が、エマは床と見つめ合ったままだ。
クソでも詰まったような、…思い詰めたような顔は話していくうちに歪みを増していく。
「今まで通りに、したいんです。…もちろん、リヴァイさんの気持ちは嬉しい。本当に嬉しいんです。だけど、 もう最後なんだって意識すればするほど、決断が揺らいじゃうんじゃないか、怖くて……離れたくないって、ワガママ言っちゃう気がして……」
「………」
「ダメダメなんです。私。自分で三日後に帰るって決めたのに、」
“ちょっとでも油断したら、リヴァイさんに縋ってしまいそうで”
そう言いながら漸くこちらを向いたのは、胸が裂けそうなほどの悲しい笑顔だった。
リヴァイは拳を力いっぱい握りしめた。爪が食い込んだ皮膚が痛みを伴うが、そんなの心の痛みに比べたらちっぽけなものだ。
リヴァイはエマに触れたい衝動を必死に抑えた。
もしも今彼女を抱きしめたら、もう二度と腕を解けない気がして。
それこそ監獄のように鎖で繋ぎ、ここに閉じ込めて、この手で彼女の自由を永遠に奪い去ってしまいそうで。
「俺は……後悔はしたくない」
発した声は震えていて、こんな情けない声が出てしまうのかと自分で自分を嘲る。気持ちを吐露すると握った拳まで震えだした。
溢れてしまいそうだ。抑えているものが、何もかも。
だが、ちゃんと伝えなければ。
「例え別れが辛くなろうとも、お前との時間は最後まで、無駄にはしたくない。それは何も時間的な意味だけじゃない。」
「………」
「俺は最後まで“ちゃんと”向き合いたい。我儘になったっていいじゃねぇか。辛けりゃ泣いたって、怒ったっていい。ありのままのお前と…エマと居れなきゃ意味がねぇ。」
大きく見開かれた瞳が揺れる。
リヴァイはゆっくり力を抜いた。じんじんと痛む掌。
やはり無理だ。怖い。
触れていなければ、三日を待たずにに消えていなくなってしまいそうで。
掌はそっとエマの頭を撫でた。
「それと、お前だけじゃねぇ。俺もお前と同じ気持ちだ。」
“え?”と微かな動揺が聞こえる。
リヴァイは撫でていた手を頭の上に置き、エマの隣に静かに腰を下ろした。