第37章 帰還、残された時間
「今日は暑かったですよね?よく晴れてたから。」
労いの言葉をかけて、それからすぐリヴァイから逃げるように視線を逸らし、朱に染まる四角い空を見て言う。傾いた太陽光がちょうど部屋へと差し込んで、エマはその眩しさに目を細めた。
結局、今日が雲ひとつない快晴だったのかは分からぬまま。
だがきっとそれに近い天気だったのだろうと思いながら、数時間ぶりに窓の外を見つめる。
「あんなに綺麗な夕焼けなら、明日もお天気ですかね?」
「そうだな」
「これからどんどん暑くなるから訓練も大変ですよね…こまめに水分取ったりして倒れないようにしないと!」
「あぁ…」
「寝不足も大敵ですから!あ、そうだ!ハンジさんにも伝えておいてくださいね?あの人こそすぐ徹夜するから一番に倒れちゃいそ」
「エマ」
エマの饒舌なお喋りはリヴァイの呼び声によって中断される。
名前を呼ばれただけなのに、動揺は拡がった。
「どうしました?」
名前を呼ばれて、その次に何を言われるのか大体予測はつく。けれどエマはわざと気付かないふりをしていた。
話をしたいのに、話したくない。
「本当にいいのか」
一言だったけれど、やはりリヴァイが何を聞きたいのかはすぐに分かった。
「いいんです」
少し間を置いて、エマは静かに肯定した。目線は胸元のクラバット辺りに向けながら。
几帳面に巻かれた真っ白なクラバット。訓練後だというのに、ヨレた形跡や汚れひとつない。
それを見て、初めてハンジに訓練を見せてもらった時の、無駄な動きの一切ない華麗な立体機動裁きを思い出し、今日もあの時みたいに美しく空を舞っていたのかな、などと考えた。
エマの肯定にリヴァイは“そうか”としか言わなかった。
抑揚のない声。そこにどんな感情を含んでいるのか、やはりエマには理解できなくて。
顔を見れば少しは分かったのかもしれない。
けれど、視線はクラバットを見つめたまま動かなかった。
いや、動かしたくなかった。
見たくなかった。
リヴァイの気持ちを知ってしまうのが、怖かった。
分からないのは、自分が知るのを拒否しているからなのかもしれない。
〝3日”
エマに残された時間は、たったそれだけになった。