第37章 帰還、残された時間
エマは首を横に振った。エルヴィンのせいではないと、それだけは違うと否定したくて、そう言った。
「こいつの言う通りだ。誰のせいでもねぇ」
リヴァイも横で頷く。
それにここに戻ってこれたのは、他でもないエルヴィンやリヴァイ達のおかげなのだ。
「団長や兵長がいてくれなかったら、今ここに私はいません…だから、本当に感謝しています。」
二人だけではない。ナイルやミケ、リヴァイ班の皆やハンジ、たくさんの仲間の協力があってこそ、ここへ帰ることができた。
それには本当に頭が下がる思いで、感謝してもしきれない。
言葉だけでは伝えきることができない。だからできればまた、皆の力になって恩返しをしたいと思う。けれど、
「…団長、私から話をさせてください。」
もう、 きっとそれは叶わない。
自分は彼らにとって利する存在にはなれないどころか、確実にお荷物だ。
そのことを、エマは今回の一件を経て十分すぎるほどに理解していた。
唐突に“話をさせてくれ”と言ってきたエマにエルヴィンもリヴァイも目を丸くし、そして表情を曇らせた。
沈黙。空気がどんよりと垂れこめる。
この場の誰もが、できれば口にしないでおきたいことを今から話さなければならないという心苦しさと、やるせない思いを抱えていた。
「……聞こうか」
重たい沈黙を打ち破ったのはエルヴィンだった。
エルヴィンはずっと、エマは気づいているだろうと思っていた。ここへ帰って来れた時から、ずっと。
彼女の胸中を考えるだけで胸が抉られる思いだ。
けれどエマを調査兵団に迎え入れ世話をしてきたエルヴィンには、きちんと話をしなければならない義務がある。
エマの、“今後”のことを。
エルヴィン自身も胸が引き裂かれそうなのは言うまでもない。
これからエマへ向けようとしている言葉は、彼女の心を傷つけ、その傷を深く抉るだろう。
けれど、人から言われるくらいなら、自分から言ってしまった方が受けるダメージが少なく済むこともある。
そういう事情かどうかまでは分からないが、エマが自分から話したいと言うなら、その気持ちは汲んでやりたいと、エルヴィンは思ったのだ。