第36章 A ray of light
「俺にぶつけろ。お前の痛みも苦しみも、全部。」
「っリヴァイ、さん…私…わたし…….」
リヴァイはエマの手を握った。以前と比べ少し細くなった指や手首。痛々しいけれど、ちゃんと温かい。
じんわりと手のひらが温まる。リヴァイより体温が高めの、いつものエマの手だ。
「泣くでも八つ当たりでもなんでもいい。俺を頼ってくれ…こんな時くらい何も我慢するな。」
握った手に力を込めて、けれど口調は柔らかく、子供を諭すように。
リヴァイが言えばエマは泣きだしてしまいそうなのを堪えながら、ぽつりぽつりと話し出した。
「頭に…こびりついて、離れないんです……」
喋りかけで一呼吸置いて、エマは腕で目元を隠した。
彼女が話しやすいように、彼女のペースでいいと、リヴァイはエマを見つめたまま黙って耳を傾ける。
「巨人の顔が…水に沈められた時の、苦しさが……無理矢理された時の、感触がっ……全然消えてくれないの…夢の中にまで出てくるの……もう…もう終わったのに、ずっと悪夢が続いているみたいに……怖い、苦しい……」
声は酷く震え、腕の隙間からは何本もの涙筋が頬を伝う。
そして最後は絞り出すような声で。
「たす、けて」
気がつけば体は勝手に動いていた。
リヴァイはエマをの身体を、強く抱き寄せた。
エマが嫌かもしれないとか、そんなことを考える余裕もなく、衝動のままに。
突き飛ばされてもいい。抱き締めずにはいられなかった。
エマをゆっくり離し、リヴァイは涙の溜まる目を見た。吃驚と惨痛が入り交じったような瞳に見つめ返される。
「まだ足りないだろう…いくらでも受け止めてやる。全部吐き出せ。」
「う……ぁ、……ぁぁあぁぁぁぁ!!!」
瞬間、部屋中に悲痛な叫びが響き渡った。
それは見たこともないくらい深い悲しみに満ちていて、リヴァイの心臓は抉られそうなほど。
けれど、エマの苦痛はそれ以上だ。
こんなことくらいしかできないけれど、それでも今、彼女の傍にいてやれるのは自分だけだ。
リヴァイは背中と頭に手を回し、小さな体をすっぽりと包み込む。
その力強くも優しい抱擁は、壊れかけたエマの心までも覆った。