第36章 A ray of light
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リヴァイはエルヴィンから聞かされたアデルの話を思い出していた。
アデルがいない今、復讐は叶わなくなったわけだが、本当は分かっていた。
もし生きていて殺したとしても何も残らないし、エマを余計に悲しませるだけだということくらい。
頭では分かっていたが、あの時は感情の暴走を止めることができなかった。
一体どうしたら、このやるせない気持ちを消し去ることができる?
「……」
穏やかな寝顔。エマの顔を見る度、どうしようもないほど胸が締め付けられる。
ベッドサイドに置かれたスープは冷めきっている。ハンジが気を利かせて食堂から調達してきてくれたものだが、半分も食べられていなかった。
食べかけの皿を見て、そういえば自分も夕食を食べていないことに気がついた。
時間的にもう給仕は終わっているだろう。一食抜くのは別に構わないが、この皿は下げておくべきか。
リヴァイはトレーを持ち扉へ一歩進んだが、くるりと振り返ったところで、穏やかだった寝顔が苦しそうに眉を寄せているのに気がついた。
そして固く閉じられた目から、一筋の涙が。
「エマ…」
リヴァイは踵を返しベッド前の椅子へ腰掛け、ハンカチで涙を拭った。
また、ギュッと心臓が握り潰されてしまいそうな痛みを感じる。
その痛みから気を逸らすように、エマの前髪を梳かし横へ流してやる。すると閉じられた瞼が薄く開かれていき、リヴァイはその手を素早く退けた。
「……リヴァイさん」
「あぁ。長いこと席を外してすまない。気分はどうだ?」
「さっきよりはだいぶ……あ、それ、すみません…まだあまり食欲が湧かなくて」
「いや、食べられる時に食べられるだけでいい。他に何か必要なことはあるか?」
リヴァイの問いに、ゆっくり首を横に振るエマ。
彼女の言うとおり、始めに目覚めた時より顔色もいいし覇気も少し戻ってきている。
「医師の診察は異常がなかったようでよかった。足裏の傷が塞がるまでは歩きづらいかもしれんが、その時は無理せず言え。」
「ありがとうございます」
微笑みを見てまた胸が傷んだ。こんなことより、もっと言いたいことはたくさんあるというのに。
良かれと思ってした自分の言動が、さっきみたいにまたエマを傷付けてしまわないか不安で躊躇ってしまう。