第6章 秘書のお仕事
「エルヴィン、お前の気持ちにどうこう言うつもりはないが一つだけ聞いていいか?」
「なんだ?」
「あいつが元いた場所に帰ったらお前はどうする?」
「………」
リヴァイの問いかけにエルヴィンは黙った。
「あいつはこっちの人間じゃねぇんだぞ、変に入れ込んだりして後戻り出来なくなったら」
「その時に考えるさ。」
エルヴィンはリヴァイの言葉を遮るように静かに、だが強い語調でそう答えた。
「……ハッ、お前らしくねぇな。」
「これは俺のプライベートの問題だからな。彼女との結末に自分が傷つくことになったとしてもそれでいいと思っている。」
それは、いつも何手も先を読んで、どれが人類にとって最善の選択かを選び行動しているエルヴィンからは想像出来ないくらい、直感的で己の欲に忠実な発言であった。
「そこまでしてでもあいつを手に入れたいのか?」
「手に入れたい、のかどうかは分からない…でも、俺だけにあの笑顔を向けさせたいとは思ってしまうな。」
「てめぇ、それは自分のものににしたいって言ってるようなもんだぞ。」
「ハハハ…そうかもしれないな。」
エルヴィンは恐らく本気だ。
きっとこれからも彼女との距離を縮めていこうとするのは間違いないだろう。
もしそうなれば…
リヴァイはそこまで考えを巡らせると、何故か急に焦燥感に駆られた。
「あいつがおかしな原因がはっきりして良かったが、あまりあいつを引っ掻き回さないでやってくれないか。」
「どうしてだ?」
「…上司が部下のことを気遣って何か悪いことでもあるか?」
……なんだこのヘンテコな言い分は。
そもそも、あいつを引っ掻き回さないでくれ、だなんてなぜ俺がそんな台詞を吐いてやがるんだ。
恋だの愛だのは当事者同士で自由にやってくれればいいはずじゃねぇか…
「リヴァイ、もし私のせいで彼女が仕事に支障をきたすことがあれば遠慮なく私を叱ってくれていい。」
「ハッ、そんな役は御免だな。そうならないようにてめぇで何とかしろ。」
「ハハ、まったくその通りだな。すまない。」
エルヴィンは乾いた笑い声を漏らしてそう言うと、揃えた資料を抱えて会議室を出ていった。