第6章 秘書のお仕事
「リヴァイ、戻らないのか?」
会議室から続々と人が出ていき、そこにはエルヴィンとリヴァイの二人が残っているだけだった。
エルヴィンは机の上で資料を揃えながら涼しい顔でリヴァイに問いかける。
「…エルヴィン、聞きたいことがあるんだが。」
リヴァイは視線の先にその男を捉えると、ゆっくりと口を開いた。
「今朝、あいつに何かしたか?」
「あいつ?誰のことだ?」
何の話だ?と言いいたげな様子で聞き返すエルヴィン。
いつもの、本心が読めない仮面を被ったような顔で。
分かっているのかいないのか、いやエルヴィンのことだ、きっと分かっているのだろう…
「エマだ。様子がおかしかったんでな、お前が何かしたんじゃねぇかと踏んでいる。」
リヴァイの視線は真っ直ぐエルヴィンを捉えたまま離さない。
全て聞き出すつもりだった。
「ハハ、随分と人聞きの悪い言われ方をしたもんだな。」
エルヴィンはリヴァイから目を逸らして笑うと、静かに話し出した。
「リヴァイ、昨日お前にエマのことを本気なのかと聞かれて、よく分からないと答えたな。」
「そうだったな。」
「俺はどうやら、自分が思ってる以上に彼女を欲してしまっているらしいよ。彼女を目の前にするとどうも自分を押さえることが難しくなってしまったようでな。」
「自分のことなのに他人事みたいに喋るんだな。」
「ハハハ…そうだな。だが彼女には何もしていない。少し本音を話しただけだ。」
「…………」
…やっぱり、それでか。
エマはきっと、エルヴィンが思ってる以上の衝撃を受けたんだろう。
昨日、兵舎の門で頬を触られただけであんな状態になってたんだ、エルヴィンとエマとじゃそういうことに対しての耐性の差がありすぎるのは一目瞭然。
エルヴィンからしたら少し本音を話しただけのつもりかもしれないが、エマにとってはかなり心の中を引っ掻き回されたんだろう。
エルヴィンは相変わらず何を考えているのか分からないような顔をしている。
…こいつはきっと、エマがそういう反応をするのも分かってやっているんだろう。
リヴァイは何もかも見透かすような澄んだ瞳を見て、そう思った。