第36章 A ray of light
「彼はもういない」
「は?」
リヴァイが苛立ちを含んだ声で聞き返せば、エルヴィンの目線は机上へ落とされる。
そして、事実は告げられた。
「彼は…アデルは死んだ」
「どういう事ことだ」
驚愕と戸惑い。リヴァイはそんな表情でエルヴィンを見上げる。
そんなリヴァイをエルヴィンは一瞥し、目線をまた机上の書類へ戻しながら口を開いた。
「彼は自ら命を絶った。…エマの刑が執行となった日にな。」
「馬鹿言え。何故ヤツが死ぬ必要がある?」
エマを利用し夢だった憲兵に入団できた上、エマのことも好き勝手しておいて、何が自殺だ?理解できない。
それにそんなことを聞いたって、リヴァイの憤りは収まらない。
「彼がなぜ自殺を選んだのか、詳しい事情は分からないが、ただ…」
「…?」
「エマを無理矢理抱いたことを後悔していると、私に打ち開けてきたんだ。」
リヴァイはにわかに信じ難いような顔をしたあと、乾いた笑いを漏らした。
「ハッ、都合がよすぎるだろ。散々自分のいいようにしておきながら後悔だなんざ笑わせる。」
「あぁ…まったくその通りだ」
エルヴィンは短く息を吐き椅子にドサリと腰掛けると、リヴァイへ向けその一部始終を語った。
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今から遡ること四日前、エマが壁外追放される運命の日。
前日から一睡もできず、エルヴィンは空になった向かいの牢を見つめながら、祈るような気持ちで朝を迎えていた。
そこへ突如現れたのがアデルだった。
「エルヴィン団長、残念ですね…大切な部下を失うことになってしまって。」
「何をしに来た」
慈悲深い顔で見下ろすアデルに、エルヴィンは淡々と問い質した。
この男とは余計な話はしたくない。用があるならさっさと済ませて、立ち去ってもらう気だった。
「そんな冷たくしないでくださいよ、ただの暇潰しです。…エマさん、どうなっちゃうのかなぁ…やっぱり巨人に捕まってぐちゃぐちゃに食べられるちゃうのかな。」
「…独り言なら独りで言え」
「団長は、心から大切に思う人はいますか?」
エルヴィンの言葉を無視して、投げかけられたのは脈略のない質問。
こんな奴の話をまともに聞く気など無かったが、聞かれれば自然と幾人かの顔が頭に浮かんだ。