第36章 A ray of light
「……」
エルヴィンは目を伏せたまま口を開こうとしない。
それは肯定を意味するのだとリヴァイは思った。
「エマの様子がおかしい。拉致や壁外での出来事に対してのショックはもちろんあるが、それとは別に、でけぇ精神的ダメージを受けてる。何があった?」
リヴァイが再び問い質すと、ゆっくり目線が合った。
エルヴィンは一呼吸置いてから真顔で話し出した。本音を隠す時に使ういつもの顔だ。
だが今回は、その後ろに見え隠れする辛い心情にリヴァイは気がついていた。
「…処刑についての情報はエマが聞き出したと説明したが、あれには裏の話がある。……情報は彼女が自ら、その身を犠牲にしたことで、得られたんだ。」
リヴァイはエルヴィンの話を眉ひとつ動かすことなく聞いていた。目線は片時も逸らさず、エルヴィンをじっと見つめたまま。
もう答え合わせはできたようなものだ。
だが、苦しむエマを救うために、中途半端では終われない。
覚悟はしているし、こんなことエマの苦痛に比べたら痛くも痒くもない。
「詳しく話せ」
静かな声で続きを促すリヴァイを、エルヴィンもじっと見やった。いつも建前ばかりを使い、並大抵のことでは本音を滲ますことすらない男が、躊躇いで瞳を揺らしている。
「昨日、エマは一人の憲兵から情報を聞き出したと説明したが…簡潔に言えば、その男に身体を開く代わりに情報を教えてもらったんだ。
取引をした訳ではないが、彼女がそうやって男の懐に入り込んでくれたお陰で聞き出すことができたのは間違いない。」
「……」
「彼女の意思は固く、何度叫んでもやめてはくれなかった。……それに、確かにその時がチャンスだったんだ。」
言い終わるとエルヴィンは唇を硬く引き結び、より一層悔しさを滲ませた。
別にエルヴィンを責めるつもりはない。彼らが想像を絶する状況に置かれていたのは分かっているつもりだし、聞いてやはりショックは受けたが、それが本当にその時の最善の策だったのだろうと思う。
だが、エマを犯したクソ男のことは知っておきたい。
今すぐには無理でも、何らかの形で必ず然るべき報いを—
だからリヴァイは問うた。
この時はまさか、“あの男”が絡んでいるなどとは、一切考えもせずに。