第36章 A ray of light
「ば…ばかやろうって、」
リヴァイは手を休めずエマとは目を合わさない。
大真面目に謝った分ちょっと傷付きそうになったけれど、意外とそうでもなかった。
丁寧に体を拭いてくれる彼はホッとしたような、とにかくとても嬉しそうな顔をしていたから、エマもつられて頬を緩めてしまったのだ。
そして次の瞬間、背中にリヴァイの腕が周り上体を起こされたかと思うと、そのままふわりと包まれた。
「……よかった」
それは聞いたことがないくらいに弱々しく、震えた声。
顔が見えなくとも、気持ちは痛いほどに伝わった。
自分が連れ去られてからリヴァイがどんな思いで今日までを過ごしてきたのか。
「リヴァイ、さん……」
名前を呼べばさらに抱きしめる力は強くなって、より密着した身体から伝わる温度と、微かに聞こえた心音がエマの意識をみるみるうちに現実へ引き戻していく。
「……わた、し、リヴァイさん、と会えた…また、会え、た…」
「もう辛いことはない。何も…心配するな…」
本当に終わったんだ。全部。
地獄のような拷問も、無慈悲な言葉を飛ばされることも、無理矢理犯されることも、極刑を受けることもない。
頭でやっとそう理解した瞬間、エマの目から涙が溢れ出した。
それは堰を切ったように溢れては零れ、リヴァイの胸元をあっという間に濡らしてしまうが、エマは止めようともせず子供のように声を上げひたすらに泣いた。
抱きしめる腕の力強さが、背中をさする手の優しさが、伝わる体のの温かさが、“ここ”に戻ってこれたことを心の底から実感させてくれて、そう思う度にまた涙が出る。
黙って受け止めてくれるリヴァイにエマはその身も心も全てを預け、枯れることのない涙を流し続けた。
どれくらい時間が経っただろうか。
まだグスングスンと鼻を鳴らしてはいるが、漸く落ち着きを取り戻したエマは静かに顔を上げた。
「少しは落ち着いたか?」
「う゛……ごめ゛、なさい゛…」
「オイオイなんて声だよ。水取ってきてやるからちょっと待ってろ、っ?!」
口を開けば酷く声を枯らしたエマ。
見かねたリヴァイが飲水を取りに行こうとベッドとから降りようとしたのだが、どういうわけか動けなかった。