第36章 A ray of light
「なら良かった。巨人は始末したが、またいつ襲ってくるかも分からんからすぐに壁まで戻る。無理な体勢をさせて悪いがもう少し耐えろ。」
「……はい」
リヴァイは前を見たまま話し、エマを抱え直すと障害物に次々とアンカーを刺して、止まることなく飛び続けた。
荷物のような持たれ方だがこの際文句なんて言えない。いや、そんな文句などハナから今のエマには浮かばなかったのだが。
エマは急に重くなった瞼を、抵抗することなくそのまま下ろした。
「……」
巨人はもういない。
リヴァイさん達が全部駆逐してくれた。
もう一人じゃない。
私はリヴァイさんと無事、再会することができたんだ…
「兵長!——」
「新たな巨人の匂いはしない、今のうちに——」
「ならこのまま撤退だ、——」
交わされる会話が耳に流れてくるが、靄(モヤ)がかかったみたいにぼんやりとしか聞こえなかった。
“撤退“
本当にこれで全部、終わった、んだ…
そのうちにエマは音が聞こえなくなった。
リヴァイに抱かれている感覚も、肌が風を切る感覚も、意識でさえも分からなくなって、
「エマ?!オイ!しっかりろ!」
何も無い暗闇に、沈んだ。
「頑張り屋さんの貴女には、昨日よりもっと苦しいのあげちゃおうと思うんだけど、どうかしら?フフフ」
「気持ちい?俺、めっちゃ気持ちいよ…エマさんのナカ、最高…」
「無力な天使が巨人という悪魔に墜落させられる…なんと美しい」
檻の中にひとりぼっち。
私を囲んでいる人達は、みんなニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべている。
向かいの牢屋を覗いたけれど、そこはもぬけの殻で。
エルヴィン団長はどこ?
私、作戦を…作戦を遂行しなければ…
リヴァイさんや皆に、壁の外で再会する約束を…
……リヴァイさん?
そうだ…リヴァイさんはどこ?!私は確かに辿り着いたはず!
リヴァイさんに会って、それで壁の中に戻るって言われて、
「これより、エマ・トミイの処刑を執行する。」
うそ…
終わったんじゃ、なかったの…?
あれは…やっぱり幻だったの……?
やだ!離して!!
またあの地獄に堕とされるなんてもう…もう………