第36章 A ray of light
破壊された部分はエマのいる場所とはちょうど反対側だったので幸い直接被害は受けなかったが、家の半分は壁も屋根もぽっかりと穴が空いてしまった。
エマはバラバラになった家屋を見てから、次に筒抜けになった天井に恐る恐る視線を移し、そして絶句した。
巨人が、いる。
自分の頭の上に、自分を覗き込むようにして、見ている。
もう指先ひとつすらまともに動かせなくて、けれども心臓だけは壊れんばかりに激しい拍動を続けていた。
カタカタと壊れた人形のように震えるしかない身体をどうすることもできない。なんの感情も読み取れない大きな瞳を見つめることしかできない。
もう、助からない。
今度こそそう思った瞬間、しかし巨人の背後から姿を現したのは、雄々しく燃える炎を瞳に宿したリヴァイだった。
鋭い刃先のような眼光を巨人に突き刺す男を、エマは呼吸も忘れてただ見上げた。
周囲の音は消え、彼の動きに視神経の全てが集中する。
リヴァイが刃を構え、その身を高速回転させなが巨人のうなじ目掛けて急降下したと思えば、巨人は血飛沫を吹きあっという間に絶命した。
その間わずか三秒にも満たなく、身のこなしは疾風の如く。
速すぎてリヴァイの動きを正確に捉えることなんて不可能だった。
「捕まれ!!」
「?!」
エマが呆気に取られていると頭上で叫び声がした。ハッと我に返ると血濡れになったリヴァイが手を伸ばしていた。
「!」
エマはいっぱいに腕を伸ばしその手を掴んだ。
腰も抜け、あれだけ身体のどこにも力が入らなかったのに、不思議と今はちゃんと動ける。
掴んだ手を勢いよく引かれ、リヴァイの小脇に抱えられるような形でエマは再び空を飛んだ。
エマが飛んだ直後、巨大な肢体は彼女が数秒前までいた場所に倒れ込み、家屋を完全に潰してしまった。
その様子を見下ろし、あと一秒でも遅ければ自分は家屋もろともぺしゃんこになっていたかと思うと……
「怪我はないか」
「っは、はい」
静かな声にエマはハッとして顔を上げた。
リヴァイは真っ直ぐ前を見たまま飛んでいる。