第36章 A ray of light
一瞬の気の緩みのせいだろうか。
それとも身体が限界を迎えてしまっていたのだろうか。
「あっ!!」
地面の凹凸に足をとられ、エマの身体は浮いたあと地表に叩きつけられた。
「いたっ」
即座に起きようとしたが、足が痛くてもたついた。一度止まった体は、瞬く間に痛みを蘇らせてしまったのだ。
それでも歯を食いしばり立ち上がろうと手をついたところで、エマは差し迫った気配に漸く気が付いたのだった。
そして手遅れだと、そう直感した。
“獲物を捕らえた”と満足気な微笑みが、エマの天井を埋めつくしていたからだ。
「……ぁ…」
己から出る声は聞いたこともないくらい情けなく震えていて。
四肢に力が入らないのは足が痛いせいではない。
地面についた肘がポキッと折れて、エマはとうとうへたり込んだ。
逃げ、なきゃ…
だけど、どうやって…?
心臓を動かす筋肉以外は、その動かし方を一切忘れてしまったかのように硬直している。
立ち上がることも、這って進むことも、叫ぶことも、何もできない。
ただ近づいてくる顔を見上げて、死なないために呼吸を繰り返すことしか。
見えたはずの光はどこへ行ってしまったのだろうか。
〝希望〟なんてそもそもなくて、己が勝手に抱いた幻想にすぎなかったのだろうか。
本当は逃げられないことに、
現実は残酷で、運命には抗えないと最初から分かっていて、気づかないフリをしていただけなのだろうか。
手が伸びてくる。
私なんてひと握りで潰してしまえそうな、大きな大きな掌。
それはまるでスローモーションを見ているみたいに、ゆっくりと、ゆっくりと。
「……ごめ、なさい…」
涙が溢れた。
ごめんなさい、団長。
あなたが導き出してくれた希望の光を、掴むことが出来ずに。
ごめんなさい、皆。
心配をかけたまま、謝ることもできずに。
ごめんなさい…リヴァイさん
あなたのが差し伸べてくれる手を、掴みたかった。
掴みたくて頑張ったけど、もう、これ以上どう頑張ったらいいのか分からない。
エマはゆっくり目を閉じた。
零れた雫は頬を伝い、音もなく落ちる。
大地には眩い光がいっぱいに降り注いでいるというのに、エマの瞳にはもう光も何も、映らなかった。