第36章 A ray of light
巨人の群れの向こうに見えたのは、大きな風車。
エルヴィンの言っていた廃村は、この巨人だらけの丘を下った先だったのだ。
むりだ……あの巨人の間を走って通り抜けるなんて…絶対に…
冷や汗が背中を伝う。
眼は瞬きを忘れてしまったみたいに見開いたまま、エマの思考は停止した。
その間にも陽は昇り、不気味な巨体を照らし出す。
そしてついに恐れていたことが起こった。
「ひっ!!」
エマは悲鳴の上がった口を勢いよく塞ぐと、できる限り体勢を低くした。
寝そべっていた巨人の顔が、突然くるりとこちらを向いたのだ。
見つかりませんように見つかりませんように見つかりませんように見つかりませんように見つかりませんように
呪文のように頭の中で繰り返しながら、息を殺し、とにかく巨人に気付かれないよう必死で体を伏せる。
しかし、
「——ッ!!」
目が、合ってしまった。
怪しく笑う、大きな瞳と。
「ア゛ァ……」
—ダメだ見つかった!
次にエマは飛び上がり、走り出した。
靴擦れを庇う余裕もなく、ただ前だけを見て無我夢中で。
ズシン……
背後で地響きのような音が鳴り大地が揺れ、エマは走りながら絶句した。
これは紛れもなく、巨人の足音だ。
恐る恐る振り返れば、やはり寝そべっていた巨人がエマに照準を定めて歩き出している。
やだ!やだやだやだ来ないで!!
こないで!!!
心の中で叫びながら、両腕両足を千切れんばかりに振り駆ける。
もっと速度を上げないと追いつかれる!
パンプスを脱ぎ捨て、長ったらしいワンピースの裾も破り捨てた。
ズシン、ズシン、ズシン
ズシンズシンズシン
「ハァッハァッハァッハァッ—?!!」
しかし追い打ちをかけるように足音が増え、エマを更なる絶望が襲った。けれども諦めなかった。
心臓が痛い。肺も、息を吸う度に激痛が走る。
足の感覚なんてもうないけれど、それでも僅かな可能性に賭けて身体に鞭を打つ。
すると視線の先に風車が飛び込んできた。その奥には数多くの家屋が。
間違いない、ここがあの村だ。
エマに一筋の光が差した瞬間だった。
その時は確かに、〝希望の光〟が差したはずだったのだ。